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「井上尚弥をKOしたら中谷潤人を1位に推したよ」井上尚弥“PFP1位”満場一致の舞台裏…米リング誌選考委員が明かしたメール投票の一部始終
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杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/05/08 06:02
米リングマガジンのPFPランキングで3度目の1位に返り咲いた井上尚弥。過去とは違い、選考委員の票は割れなかった
あれから、約4年――時は流れ、井上は誰にも文句を言わせないNo.1ボクサーになった。すでに最高級の地位を築きながら、この17カ月で5試合と“戦うチャンピオン”であり続けていることは驚異的だ。5歳も若く、底力と勢いがあり、身体のフレームで大きく上回る危険な3階級制覇王者・中谷との対決も立場上はそもそも“やらなければならない試合”ではなかったはず。敗れていれば多くを失っていたはずのリスキーなメガファイトを敢然と受けて立ち、堂々と勝ち残った。
30代前半になっても強敵との戦いを模索する“モンスター”のキャリアは、一部の例外を除いて“リスク回避”が主眼となった感がある現代ボクシングへのアンチテーゼに思える。ここでその功績がPFP1位という形で評価され、喜ばしく思っているファン、関係者は日本以外にもたくさん存在するに違いない。
グレイ記者「来年まで“1位”を守るのでは?」
最後に今後を占っておくと、井上はPFPの王座でも長期政権を築きそうな予感がある。前述の通り、過去2度、PFPトップに上り詰めたが、それらの直後にウシクが強敵相手に好内容での勝利を挙げたためにすぐに1位から陥落した。
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スティーブン・フルトンに完璧な8回TKO勝ちを飾った2023年7月25日、ウシクを抜いての1位復帰が有力視され、しばらくそこに居座るかと思われた。ところがその4日後、3位だったクロフォードがスペンスとのPFPトップ10対決で圧勝。ここでクロフォードはウシク、井上を抜いて1位に浮上し、井上の安定政権はならなかった。
今回は状況が少々違う。ウシクは5月23日に次戦を予定はしているものの、対戦相手はオランダ人のキックボクサー、リコ・バーホーベン。12年前に一度だけボクシング経験がある選手に快勝したところで、高評価は得られまい。
しばらくはウシク、井上とともに形成する“3強”の一角と目されてきたクロフォードはすでに引退した。次代の最強王者と目されるPFP3位のシャクール・スティーブンソンもビッグファイトの計画はない。PFP4位のジェシー・“バム”・ロドリゲスは6月に予定されているWBA世界バンタム級休養王者アントニオ・バルガスに勝てば3階級制覇となるものの、バルガスはリングマガジンの階級ランキングではバンタム級5位でしかないことを考えれば、たとえKO勝ちしても井上の1位を脅かすことにはならないはずだ。
ラスベガスで2日、WBA・WBO世界クルーザー級王者ヒルベルト・スルド・ラミレスにKO勝ちでPFPランキングを7位から5位に上げたデビッド・ベナビデスは今後面白い存在になりそう。重量級の3階級制覇王者は勢いと魅力がある。ただ、井上と同日に試合をこなしたあとで、2026年後半までリング登場はないはずだ。
そういった背景を考慮し、グレイ氏は「ボクシングでは予想できないことが起こるものだが」と前置きした上で、井上がしばらく王座をキープすることを予測していた。
「スティーブンソン対デビン・ヘイニー(PFP8位)、ベナビデス対ビボルといったPFPトップ10選手の直接対決が実現し、どちらかがいい内容で勝った場合、上位の変動は考えられる。しかし、それらが早期に実現する可能性は高いとは言えない。結果として、井上は来年に予定される自身の次戦まで1位を守るのではないか」
長期にわたって十分過ぎるほどの実績を積み上げてきた井上に、PFPでも“我が世の春”がやってきたのかもしれない。現代ボクシングの頂点に立つのは、日本が生んだ“モンスター”。今さらながら、とてつもない時代が来たものだ。何よりも素晴らしいことに、その時代は少なくとももうしばらくは続きそうなのである。


