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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「中谷潤人ももらったことのないパンチだったはず…」元世界王者・飯田覚士が着目した11ラウンド・井上尚弥の“凄いパンチ”「普通は選択できません」
posted2026/05/06 17:03
5月2日に東京ドームで行なわれた世紀の一戦、井上尚弥vs.中谷潤人。この試合のポイントを元世界王者の飯田覚士が徹底解説した
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
リング上で交わされた2人の“笑み”
リング上で戦っている者同士が、その最中に笑みを浮かべるなんてなかなかお目に掛かるものではない。
挑発でもなく、苦笑の類でもなく、ボクシングの深淵に触れた情動がそれを呼び込み、2人だけの世界に没入していた。
世界スーパーバンタム級4団体統一王者、井上尚弥と中谷潤人による無敗対決は8ラウンドまで進んでいた。そのシーンは、ハーフタイム過ぎに訪れた。
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元WBA世界スーパーフライ級王者、飯田覚士氏は感嘆を交えてこう語る。
「何と言っても、笑い合う前の素晴らしい攻防ですよね。中谷選手がフックみたいなジャブを上に打ったら、尚弥選手が左を返して、そのまま次に重心を下げて右ボディブローを振ってきました。中谷選手はそれをギリギリでかわして、左を打ち下してすぐに右アッパーをブンと振っていきます。いけると思ったのではないでしょうか。
しかし今度はチャンピオンがかわします。ボディを打とうとして頭を下げているので、上から相手のパンチが来ることを想定して、かするくらいの距離をバックした。普通ならもっと下がりますよ。そして向かってくるアッパーの軌道に合わせて横に顔を動かしてギリギリのギリギリでしのぎ切った。そのうえで右を打ち返しているんです。そんなの見たことがない(笑)。体勢が悪いのに、低い位置から避け切るってどれだけ下半身が強いか。そして避け切って打つまでをしっかりイメージしているからああやって打てる。やっぱりモンスターですよ。それも相当なスピードのなかで、一連のやり取りが行なわれているわけです。
中谷選手からすれば、準備してきたアッパーで追っていって当たらないうえに、なおかつ強打を返された。だから思わず“かわすだけでも大変なのに、そこから打ってくるなんて”の笑みだったんじゃないですかね。チャンピオンもそれに応じたんだと思います」
飯田はメモに目を落とさずとも、このシーンをすらすらと振り返った。その脳裏にくっきり刻まれるほどの、2人だからできた“拳のコミュニケーション”であった。
8ラウンドから流れは挑戦者・中谷へ
中盤からペースアップしてきた中谷はこの8ラウンド、左から高速で右フックにつなげるなど、攻勢に出る。押し込んで井上にロープを背負わせる場面もつくっている。このラウンドに続き、10ラウンドもジャッジ3者が中谷に「10」をつけている。流れはチャレンジャーに傾きつつあった。

