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井上尚弥の“神回避”に中谷潤人が笑みを浮かべ…至高の技術戦で何が起きていた?「尚弥が空間を支配した」真吾トレーナーが明かした“やりやすい感覚”
posted2026/05/04 17:08
井上尚弥と中谷潤人が繰り広げた「世紀の一戦」。両雄と陣営の証言から、“至高の技術戦”の内幕を解き明かす
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
スーパーバンタム級4団体統一戦が5月2日、東京ドームで行われ、統一チャンピオンの井上尚弥(大橋)が挑戦者の中谷潤人(M.T)に3-0で判定勝ちした。東京ドームを埋め尽くした5万5000人の観衆が見守る中、史上最高と言われる日本人対決を制した井上は中谷をどう感じ、どう戦い、勝利を手にしたのか。本人と井上真吾トレーナーのコメントから「世紀の一戦」を振り返る。
真吾トレーナーが抱いた“やりやすい感覚”とは?
壮絶な打撃戦が展開されたわけではない。派手なノックアウトで試合が終わったわけでもない。目の覚めるようなダウンシーンもなかった。それでも日本が世界に誇る両雄の対決は見どころ満載の技術戦で、気が付けばあっという間に12ラウンドが終わっていた。井上は試合後、たった今終わったばかりのファイトを次のように表現した。
「今日は体力というか、やっぱり脳のスタミナが削られたなと。それだけ張りつめて12ラウンド戦った試合でした」
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注目の立ち上がり、中谷はいつものようにスタンスを広く取り、低く構えて井上と対峙した。身長で8cm上回る懐の深いサウスポーは自身のアドバンテージを最大限に生かそうとしているように見えた。やりにくいことこの上ないが、井上陣営にとっては想定内の幕明けだった。
井上は盛んにフェイントをかけながら踏み込んでいった。ジャブ、そしてボディへの右ストレート。中谷はタイミングを計り、井上が打つ瞬間に左を合わせようとした。中谷のリアクションが鋭い。そして中谷のカウンターに対する井上の反応もとてつもなく早い。井上が中谷の左をヘッドスリップで外す映像が場内に流れると、5万5000人の観衆から「おおっ……!」と感嘆の声が上がった。
真吾トレーナーは立ち上がりの攻防を「一番やりやすいな、という感覚だった」と率直に明かした。
「中谷選手はプレッシャーをかけてきているけど、尚弥のプレッシャーで入りたくても入れない。あの中間距離は尚弥が一番得意にしてますから。やる前はこっちがやりづらくなるかもしれないというイメージがあったけど、スタートの段階で中谷選手の方が『パンチがあたらない』というやきもきがあるんじゃないかと感じました。これなら理想としていたパターンだなと」
井上陣営は中谷がいきなり距離を詰めて、接近戦を仕掛けてくることも想定していた。真吾トレーナーが続ける。


