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井上尚弥の“神回避”に中谷潤人が笑みを浮かべ…至高の技術戦で何が起きていた?「尚弥が空間を支配した」真吾トレーナーが明かした“やりやすい感覚” 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2026/05/04 17:08

井上尚弥の“神回避”に中谷潤人が笑みを浮かべ…至高の技術戦で何が起きていた?「尚弥が空間を支配した」真吾トレーナーが明かした“やりやすい感覚”<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

井上尚弥と中谷潤人が繰り広げた「世紀の一戦」。両雄と陣営の証言から、“至高の技術戦”の内幕を解き明かす

「ここは譲ってもいい」井上尚弥が“受けに回った”理由

 9回も中谷が前に出た。井上をロープに詰めてコンビネーションを打ち込んだり、右アッパーを決めたり、危険な左フックも振り下ろしていった。10ラウンドも中谷が右アッパーを決めて会場を沸かせる。井上は疲れてきたのか。打ち終わりに珍しくバランスを崩すシーンもあり、やや集中力が落ちてきたようにも感じられた。

 井上は8回までにポイントで大きくリードしていると読んでいた。やや受けに回った理由もそこにあったという。

「陣営とポイントは大丈夫と確認していました。そして中谷選手が8、9、10ラウンドでプレッシャーを強めてきて、それを攻撃で迎え撃つのではなく、少し体力を温存しながら受けに回る。そのスタイルでポイントをピックアップできればいいけど、できなければ自分の中では譲ってもいい。そんな感覚で戦っていました」

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 11回、井上が立て直す。右のダブルを打ち込み、右アッパーを決めると、左目を痛めたのか、中谷の動きが一気に落ちた。フットワークでその場をしのごうとするが、グローブの隙間から苦しそうな顔がのぞく。井上にとってはこの試合初めてのKOチャンスと言えたが、右ストレートから左アッパーを決めたものの深追いはしなかった。

 最終回、中谷は目を気にする素振りを見せずに井上に向かっていった。井上はアッパーを多用して中谷に迫る。タイマーが残り1分を示すと、東京ドームは割れんばかりの大歓声だ。そして試合終了のゴング。両雄は抱き合って健闘をたたえ合った。

「負けられない気持ちが今までとまったく違った」

 スコアは116-112が2人、115-113が1人。「2ポイント差は厳しいと思った」というのが勝者の正直な感想だが、気力、体力ともに充実した井上がここまで競った試合をしたことは過去にない。中谷は敗れながらも「あの井上に勝てる可能性があるとすればこの男」という期待に応えた。そして神話を守ったモンスターはやはり強かった。戦いを終えた井上は次のように語った。

「年も33歳になって日本人のPFPランキング入りしている下から上がってきた選手と戦うのは、やっぱり負けられない気持ちが今までの試合とまったく違った。重圧だったり、そういう雰囲気があって自分の中で張りつめた5月2日までだったので、今日はひとまず勝ててホッとしています」

 5万5000人の大歓声、マイケル・バッファーのアナウンス、布袋寅泰の生ギター、藤井フミヤの国歌独唱、そして世界最高峰のファイターによる至高のボクシング──。2026年5月2日、スペシャルな一夜が歴史に刻まれた。

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