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「中谷潤人にはパンチ力がない」対戦者が抱いた“錯覚”「アッパーを300発もらいました」“大谷翔平をベンチで見つめた”元高校球児が中谷に負けた日
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森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/05/01 11:06
2019年2月2日、後楽園ホールで行われた日本フライ級王座決定戦。望月直樹は奮闘及ばず、中谷潤人に9回TKOで敗れた
「大谷はやばいぞ」東北大会で知った怪物1年生
高校の寮生活で、望月が最初に受けた衝撃は食事だった。一日に白米を2500g、茶碗で大盛り20杯以上食べなくてはならない。線が細く体重が50kgにも満たない望月にとって地獄のような日々。吐きながらでも食卓にある白米を平らげなくてはならなかった。
同級生の中には、のちに俳優となる松谷鷹也がいた。しかし、誰もが一日一日を生き延びるのに精一杯で、娯楽を共有するような時間はなかった。授業中に寝ていたら教師に怒られる。寮では上下関係も厳しい。常に誰かから監視をされているような生活だった。
体格だけでなく、肝心の野球でもレベルの差を感じた。技術的にちょっと無理だな……。球拾いばかりでレギュラーの座は遠かった。
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望月の2年時に、学法福島は44年ぶりとなる秋季東北大会への出場を決めた。トーナメントの抽選があり、初戦が岩手・花巻東高に決まった。部室でミーティングが開かれ、戦略を練るコーチが口を開いた。
「花巻東の1年生の大谷ってやばいぞ。身長が高くて、150km近く投げるバケモノらしい」
望月はそのとき初めて大谷翔平という名前を知った。
やってやろうぜ、いけるんじゃないか! チームメートはみんな威勢がいい。そんな中、ベンチメンバーの望月はひとり淡々としていた。
へえ、大谷というヤツがいるんだ、まあ、俺は試合に出ないけど……。
2010年10月8日、山形県天童市スポーツセンター野球場で、東北大会の初戦が行われた。“大谷というヤツ”は「4番・ライト」で先発投手ではなかった。
打席に入った大谷はライト方向へ引っ張り、大飛球を放った。
「おおっ!」
あのミーティングで名前の出たヤツだ。三塁側のベンチにいた望月も思わず声が出た。打球は右へ切れた。ファウルでなければ飛距離は十分のホームランになっていた。
学法福島は先発投手の松谷が崩れたものの、5回に3-2で勝ち越した。すると、6回から花巻東の3番手として大谷がマウンドに上がってきた。
だが、学法福島は怪物1年生に食らいつく。7回に四死球と相手のエラーで1点を加え、4-3で競り勝ち、初戦を突破した。

