36歳ボクサー“今もスーパーでアルバイト”「羨ましいと思うことはあります。でも…」“現役最多58戦”渡邉卓也の告白「自分に負けるのだけは嫌なんで」 

　現地に到着すると、ああ、海外に来たんだな、と身震いがする。移動の車で信号待ちをしていると、勝手に車の窓を拭いてきて「お金をくれ」と迫られた。交差点の真ん中で、昼間は女の子たちが楽器で演奏をし、夜はダンスを踊る集団がチップを求めてくる。

　試合会場は完全アウェイ。会場の盛り上がりは凄まじく、ブーイングで耳が痛くなるほどだった。観客全員が地元のローマンを応援している。そんな中、渡邉は果敢に攻めた。ダウン寸前まで追い込むシーンはあったものの、0-3の判定負け。試合を終え、帰ろうとすると大勢の観客が寄ってくる。

「サインをくれ！　一緒に写真も撮ってくれ！」

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　メキシコの観客が勇敢に闘ったことを評価してくれていた。ようやく会場から出られたと思ったら、また人が集まってきた。

現役19年、今も続けるスーパーのアルバイト

　目の前にいる渡邉の口ぶりから海外で闘うことの特別感や過酷さは感じなかった。そこにリングがあり、闘いたい相手がいるだけ。まるで日常を語るかのようだった。

　強くなりたいと思って始めたボクシング。気がつけば、来年2月には37歳になる。戦績は42勝（23KO）14敗2分。現役19年、ずっとスーパーマーケット「サミット」でのアルバイトからジムへの生活を続けてきた。なぜ、これほどまでの情熱をボクシングに傾けられるのだろうか。

――熱量はデビュー当時と変わりませんか？

「そうですね。ボクシングは中毒性がある、みたいなことをよく言うじゃないですか」

――リングに上がり、スポットライトを浴びるのは気持ちいいかもしれませんが、ボクサーは試合までの道のりが過酷です。

「いや、俺、リングに上がるのを気持ちいいと思っているのかな……。毎回すげー緊張してるからなあ」

――緊張度合いもデビュー当時と変わらないということでしょうか。

「そうなんですよ。リングに上がって、ドヤ顔で手を挙げているじゃないですか。あのとき、めちゃくちゃドキドキしているんです。早くゴング鳴れよ、って思っています」

　いまだに緊張する。50回以上リングに上がろうと慣れることはない。緊張や不安を少しでも解消するためにできること。それはもう練習しかない。これだけやったんだ、と思って初めてリングに上がれる。

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