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「井上尚弥とのスパーリング、断る選手も…」「それが正解です」渡邉卓也はなぜ“逃げなかった”のか? 吐露した悔しさ「今、めっちゃ練習してえなあ」 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/12/27 11:37

「井上尚弥とのスパーリング、断る選手も…」「それが正解です」渡邉卓也はなぜ“逃げなかった”のか? 吐露した悔しさ「今、めっちゃ練習してえなあ」<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

2016年12月31日、渡邉卓也は伊藤雅雪とのOPBF・WBOアジア太平洋スーパーフェザー級王座統一戦に臨んだものの、判定で敗れた

“試合もスパーも断らない”築いたキャリアは58戦

 その後も大橋ジムから声がかかれば、迷わずに行った。井上兄弟や五輪メダリストの清水聡と拳を交わしながら、他のジムではWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志やノニト・ドネアともスパーリングを重ねた。

 2018年10月、井上がファンカルロス・パヤノを70秒で鮮烈KOした、3週間後にもオファーを受けた。

 あの衝撃的な試合を見せられて、またやるのか……。

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 そう思いながらも、大橋ジムへ足は向かっていた。

 スパーリングと同じく、試合のオファーがあれば、どこのリングでも上がってきた。

 通算58戦。そのうちタイで5戦、韓国で4戦、香港で4戦、中国、台湾、メキシコでも1試合ずつ、海外で計16戦。異国の地を訪れても観光しようと思ったことはない。飛行機のトラブルでタイに2日間足止めとなり、マーケットに行ったくらいだった。

 アジアなら試合2日前に日本を旅立つ。減量中の体でエコノミーの身動きが取れない座席に座ったままタイ・バンコクへの6時間半を過ごす。機内での時間が異様に長く感じる。周囲はみんな機内食をほおばり、隣ではお酒を飲んでいる人もいた。

 俺はメシ食えねえのか……。

 ボクサーにとって、試合までで一番きつい時期だ。現地に到着したら翌日が計量で、その後はリングに上がるためのリカバリーをして、コンディションを整える。

 タイのお粥がお腹にやさしそうで、「これが正解だな」と思って食べたものの、塩分が高く、とても試合直前に口にするものではなかった。部屋には虫がいるし、冷蔵庫を開ければ蟻がいる。相手は右構えと聞いていたが、実際はサウスポーだったこともある。

 屋外で闘ったときには、あまりの暑さで身体から汗が噴き出てくる。そんな悪環境のアウェイであっても、嫌だな、と思ったことは一度もない。どこのリングであろうとも、力を出し切ることしか考えていなかった。

<続く>

#4に続く
36歳ボクサー“今もスーパーでアルバイト”「羨ましいと思うことはあります。でも…」“現役最多58戦”渡邉卓也の告白「自分に負けるのだけは嫌なんで」
この連載の一覧を見る(#1〜4)

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