第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER

「今度こそ主役のひとりになりたい」大東文化大学のキーマン・棟方一楽が箱根駅伝“花の2区”でシード権獲得に向け発揮する勝負度胸

posted2025/12/11 10:00

 
「今度こそ主役のひとりになりたい」大東文化大学のキーマン・棟方一楽が箱根駅伝“花の2区”でシード権獲得に向け発揮する勝負度胸<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

前回に続き、箱根駅伝で2区を務める予定の棟方一楽

text by

小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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Yuki Suenaga

 殻を破れるか、否か。

 大東文化大学3年生の棟方一楽は今、真のエースに向けて脱皮の途上にある。

 昨季、上尾シティハーフマラソンで当時のU20日本記録を打ち立て、一躍その名を駅伝ファンの間に知らしめた。その勢いを買われ、前回の箱根駅伝ではエース区間の2区を任されたが、終盤に失速して区間16位と奮わず。フィニッシュ直後には悔し涙をこぼした。

 それでも、指揮官である真名子圭監督の信頼は揺るがない。あれから季節を重ね、確実にスタミナは増し、精神的にもタフになった。「よほどの体調不良でもない限り、次も2区は棟方」と監督は明言する。

「実際に練習を見ていても一番強いし、レース度胸もある。上に入濵(輝大・4年)もいれば、下には大濱(逞真)や中澤(真大・共に2年)もいますけど、彼らは棟方がいるからこそ輝ける。チームの中心にいるのは間違いなく彼です」

 その彼に、監督からキーマンと名指しされたことを伝えると、棟方ははにかむように微笑んだ。

 青森県出身。「好きな女の子がやっていたから」という理由で小学4年から陸上競技を始めた。やがて箱根駅伝出場を夢見るようになると、中高とますます陸上競技にのめり込んでいく。高校は弘前実業高、いわゆる駅伝の名門校ではない。全国の舞台とも無縁で、3年の夏を過ぎてもスカウトの声はどこからもかからなかった。

見出された青森の才能

 当時、棟方を支えていたのはこんな思いだったという。

「箱根駅伝に出るためには関東の大学に行くしかなくて、そのチャンスが欲しいなって。自分の可能性はやはり信じたいじゃないですか」

 棟方の熱意に打たれた高校の恩師が、細い伝手を頼って真名子監督に声を届け、走りを直接見てもらう機会をもうけた。真名子監督は当初獲るつもりはなかったと言うが、断ろうと思って足を運んだ青森の小さな競技会で、ついに才能は見いだされた。その年の推薦枠が1枠だけ残っていたという縁もあった。

 入部当初はひ弱さも目立った棟方だが、素直な性格で人一倍熱心に練習に取り組んだ。伝統あるチームでエースと呼ばれるまでに成長できた要因について、本人はこう振り返る。

「高校の時から変わらないんですけど、目の前の課題をひとつずつクリアしていくというのを大事にしていて、そうしていると自然と良い結果に結びつく。上尾シティハーフマラソンの前も足首をケガして、2週間ほど走ることができなくて……。でも、その間に正しい体の使い方や可動域を見つめ直したのが、自分の中ではすごく大きかったです」

 前回の箱根駅伝でも、明確な課題を得た。周りのペースに合わせ、序盤から設定よりも速いペースで突っ込んだ結果、中盤以降のアップダウンの多いコースに苦しめられた。4年生エースの故障により、急きょエース区間を任されたという心の動揺もあったのだろう。

【次ページ】 4年生への思いとエースならではの勝負度胸

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