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「“育成なら1位で獲る”という球団もありました」仙台育英、ドラフト指名漏れのウラ側…高校生が異例の“指名漏れ会見”、須江監督「すでに10件電話がきてます」
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中村計Kei Nakamura
photograph bySankei Shimbun
posted2025/12/10 11:06
仙台育英高校で「スケール感は過去イチ」と絶賛された高田庵冬。筆者はドラフト前から彼を取材した
そう言い、2人を報道陣の方へ差し向けた。ただ、着席した上での会見という形ではなく、立ったまま1人ずつ順番に記者が囲み、簡単な質疑応答を繰り返した。
吉川はすでに瞳の奥に炎を宿しているように見えた。
「(プロ野球への)思いは強くなった。社会人か大学に進むと思うので、3、4年後にドラフト1位で行けるようにしっかりと準備をしたいと思います。これからもっと自分を苦しめてがんばりたいなと思いました」
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高田は表情からは感情は読めなかったが、支配下指名が終わった瞬間の心境を問うと、はっきりとした口調でこう答えた。
「悲しい気持ちはすごくあったんですけど、そこでスパッと切り替えました。この先、自分が活躍して、次はドラ1で入るという目標がすぐにできたので、これからの自分の成長を考えたらすごくよかったのかなと思います」
2人の決意の言葉を聞き、須江が取材を受けさせた理由がよくわかった。吉川も高田も話しながら気持ちを整理し、次に向かう心の準備をしていた。今からでも練習をやりたそうな、そんな雰囲気が伝わってきた。
「“育成なら1位で獲りたい”球団もありました」
正直なところ、吉川はともかく、高田の志望届提出は少し驚いた。須江の育成方針ゆえのことだとはいえ、アマチュア野球の8番打者がドラフトで指名されたケースというのは聞いたことがない。甲子園の3回戦と国スポでは6番を任されていたが、6番打者であっても指名された例というのはそうないのではないか。
須江もこう話していたほどだ。
「よく考えたら、説得力がないですよね。担当されたスカウトの方たちは、どうやって上司に話したんですかね。どう言っても『そんなにいいんなら4番打たせるだろ』って言われちゃいそう。でもね、そういう風に育てたかったんですよ。むしろ、そこが彼のポテンシャルが普通じゃないことの証明というか。人生の中で、あんな心躍るやつにはもう会えないんじゃないかというレベルですから」
高田は「72番目」の男でもあった。ドラフト中継の解説も務めていたスポーツジャーナリストの西尾典文は事前に指名が予想される72人の名前をネット上に挙げていたのだが、高田の名前はその中のいちばん最後、72番目にあった。ただし、そのことが高田の将来性の高さを何よりも証明しているようにも思えた。
須江は今年のドラフトをこう総括した。


