第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「目標はシード権獲得」エース馬場賢人だのみから脱した立教大学の選手たちが狙う、箱根駅伝20番手からの快走
posted2025/12/10 10:00
ケガの影響で箱根駅伝予選会は仲間を見守るにとどまった馬場賢人。今シーズンはまだ駅伝を走っていない
text by

佐藤俊Shun Sato
photograph by
Yuki Suenaga
5月の関東学生陸上競技対校選手権(関東インカレ)の時は、かなり渋い表情だった。
その後、6月が過ぎ、7月の関東学生網走夏季記録挑戦競技会でトラックシーズンが終わった時も、立教大学・髙林祐介監督の表情が晴れることはなかった。
「シード権獲得という目標に対して私と学生の間に認識の違いがあり、それがなかなか埋まりませんでした」
昨季、立大は箱根駅伝予選会をトップ通過して本選に出場。往路では馬場賢人(当時3年)らが気持ちのこもった走りでたすきをつなぎ、8位で復路につなげた。目標だったシード権の獲得を視界に捉えていた。
だが、結果は総合13位。シード権獲得は果たせなかったが、その経験は選手に「次はシードに届くはず」という自信をもたらした。一方で、髙林監督は他大学と戦力を比較した上で、厳しい見方をしていた。
「私が指揮した昨季は、どちらかというと成績が上振れしたところがあったんです。でも、今シーズンは『シード権、行けるよ』と言えるほど簡単ではない。むしろ選手層や持ちタイムを他大学と比較すると、昨季よりも難しくなる。シード権を取るために相当覚悟してやらないと予選会ですら苦戦するという自分の認識と、このままがんばっていけばシード権が取れるという学生の認識の間には大きな溝がありました」
その差を埋めるべく、今季はトラックシーズンで5000mや10000mのタイムを向上させたかったが、思うような結果は出なかった。夏合宿に入っても髙林監督の危機感と選手の楽観は平行線をたどり、そのまま10月の箱根駅伝予選会を迎えた。
それでも髙林監督いわく「練習はしっかりと出来ていた」。足りなかったのは、もう一段も二段もロケットのごとく成長するチャンスと、シード権獲得までの距離感の認識だった。
不本意な成績に気づかされたこと
昨季の箱根駅伝予選会では、選手が集中して取り組んだこともあってトップ通過を果たした。その後もいい緊張感と集中力を保てた結果、選手たちはさらなる成長を遂げ、箱根駅伝往路での好走につながった。髙林監督としては今季も箱根駅伝予選会をきっかけとする成長に期待したが、選手の意識は変わらず、ギリギリでの10位通過という結果に終わった。
レース後、主将の國安広人(4年)の表情は硬いままだった。
「今まで通りにやれば行けるだろうと思っていました。馬場が(足を痛めて)出られなくなって、彼抜きでもやれるように練習をしてきたんですが、厳しかったですね。このままだと馬場頼みになってしまう。自分がやるんだという意識、エースとして走るんだという自覚を全員が持たないと……このままではシード権はかなり遠いです」
見込みの甘さに初めて気づいた國安に対し、髙林監督はこれがキッカケになればと考えていた。
「このままじゃダメ。そこに気づけたことはよかった。昨年のように、選手がここから集中力を持って取り組み、成長していければ、箱根駅伝では十分戦えると思います」
不本意な成績を糧に、選手たちは“別人”になれるキッカケを掴んだ。明るい材料は、まだある。


