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「16歳の私と26歳の彼」禁断の恋から生まれた息子が、世界陸上王者に「これからも厳しく指導しますよ」ブラジル競歩の英雄の母はパワフルすぎた
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沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byHiroaki Sawada
posted2025/12/03 11:03
世界陸上で金メダルを獲得したブラジル人カイオ・ボンフィム一家。現地ブラジリアに足を運ぶと、とても幸せそうだった
――元は陸上長距離の選手だったそうですね。
「そうなんだけど、いくら練習しても良い結果が出なかった。ジョアンは厳しいけれど、ユーモアがあって、生徒たちから人気があった。高校の陸上部でも、熱心に指導していた」
――そして、先生と生徒、コーチと選手だった2人が恋に落ちたわけですね。
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「そうなの。私が16歳、彼が26歳のときだった」
――うわあああ。ブラジルは恋愛に寛大な国だと思いますが、さすがにそれは……。
「そうなのよ。交際していることが発覚して、学校では大騒ぎ。でも幸い、2人とも学校から処分を受けることはなかった。ただし、別のコーチが私たちを指導するようになったけど。父は厳格な人で、こっぴどく叱られた。彼が私の家へ来て、『お嬢さんとは真剣に交際しています』 と伝えたんだけど、『絶対に交際は認めない』の一点張りで追い返した」
こっそり交際を続けたわ(笑)
――それで、交際をやめたのですか?
「いいえ(笑)。こっそり交際を続けた。私は、高校を卒業すると大学の法学部に入り、それと並行して、彼が運営する陸上クラブで競歩の指導を受けたの。大学卒業後も、弁護士として働きながら、陸上競技を続けた」
――カイオは「練習をしていると、腰を左右に振る競歩独特のフォームのせいで散々にからかわれた」と話していましたが、あなたの場合はどうでしたか。
「私の場合も、ひどかった。女性の場合は、性的なひやかしを受けるの。私は気が強いから、負けずに言い返した。すると、さらに輪をかけてひどいことを言われる……こんな試練を乗り越えて、練習を続けた」
――弁護士の仕事を続け、生まれたカイオの世話をする一方で、26歳にして陸上長距離から競歩へ転向。1996~98年まで3年連続で10kmの国内王者、99~2002年まで4年連続で20kmの国内王者となりました。
「競歩へ転向したのが遅かったんだけど、諦めずに頑張った。そして、40歳で自己ベストを出したのよ。でも、腰を痛めて43歳で現役を引退。ちょうどカイオが競歩を始めた時期で、付きっきりで指導した」
息子は偉大な才能…でも厳しく指導しますよ
――カイオも「現役を引退したばかりの母が、付きっきりで指導してくれた。練習は厳しかったけれど、それまでフットボールできつい練習をしていたから、耐えられないほどではなかった」と語っています。そして、五輪にこれまで4度出場し、昨年のパリ五輪で銀メダルを獲得。9月の世界陸上で、ついに世界王者となった。

