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「絶対に前田君に勝ちたくて…」箱根駅伝予選会「知られざる名勝負」のウラ話…東農大“留学生級”大エースと東大“史上最強”ランナーの数奇な縁
posted2025/10/19 18:15
箱根駅伝予選会で日本人5位、6位に入った東大の秋吉拓真と東農大の前田和摩。同じ兵庫県の高校出身のふたりにはある因縁が
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生島淳Jun Ikushima
photograph by
Yuki Suenaga
箱根駅伝予選会、レースが行われている昭和記念公園内の、ラスト1km地点の上り坂に陣取った。
留学生ランナーが「タッ、タッ、タッ」と軽快に走っていく。それから時間が空いて、日本人の集団がやってくる。「ダダダダダ」とシューズの音が交錯する。そのなかに、東京大学の秋吉拓真がいた。
秋吉は前回の箱根駅伝の8区を走り、区間7位相当の快走を見せた。
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箱根から数日経ち、駒場キャンパス近くの喫茶店でインタビューをしたが、印象的だったのは、走行距離を稼ぐためにジョグ通学をしているとのことだった。
「駒場に通っていた2年生までは、自宅が井の頭線の三鷹台駅の近くだったので、10km近くを走って帰宅していました。3年生になり、本郷キャンパスに通うようになって、両国に引っ越したんですが、本郷から5kmくらいなので走っています」
秋吉は兵庫・六甲学院から現役で東大に入学。1年生から予選会に出場したが、その時は1時間08分32秒の345位だった。そして4年生になった今回、1時間02分12秒で個人総合12位、日本人では5位に食い込んだ。実に3年前から6分以上も短縮したことになる。
「ラスト200mのあたりで、東京農業大の前田(和摩)君の背中が見えたので、『絶対に勝ちたい』と思って、スパートしました。ラストスパート、キレがあったんです。でも、それは裏返せば力を残していたことになるので、そこは反省点です」
東大“史上最強”ランナーと東農大“留学生級”エースの縁
実は前田と秋吉には因縁がある。
秋吉は高校3年の兵庫県高校総体の5000mに出場し、9位に入っている。この時、3位だったのが報徳学園2年の前田だった。前田は高校3年の時にはインターハイの5000mで13分58秒01のタイムで4位に入り、日本人トップ。高校時代の“格”でいえば、秋吉とは比較することすら難しい差があった。

