なぜ井上尚弥に接近戦を仕掛けなかった？ 長谷川穂積が実況席で感じた“敗者アフマダリエフの誤算”「警戒心マックスになりすぎ」「接近戦でも厳しい」 

なぜアフマダリエフは接近戦を仕掛けなかったのか

　アフマダリエフとて状況を打破しなければいけないとは分かっていた。何度か前に出ようとする素振りも見せた。重々分かっていながら、結局は何もできなかったということだ。

「いきたくてもいけないという感じがずっと続きました。強引にいきかけたシーンもありましたけど、そのたびにひっかけられたり、動かれたり、狙われたり、距離を取られたり。空転させられて、先のジャブをもらってしまう。もうどうにもならない展開でした」

アフマダリエフの左フックをかわす井上尚弥。同様のシーンはたびたび見られた　©Takuya Sugiyama

　アフマダリエフはパワーがあるのだから、もっと強引に距離を詰めて接近戦を仕掛けるべきではなかったのか。長谷川さんはそんな疑問にも首を横に振った。

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「動かれてつかまえられないというのもありますけど、たとえ接近戦に持ち込んでも勝機を見いだせなかったと思います。パンチがない相手だったら強引に詰めて、ごちゃごちゃした展開に引きずり込む手はあったかもしれません。でも井上選手はパンチが強い。ボディブローも的確に打つ。アフマダリエフも実力者ですから。接近戦をしても厳しいと感じたんじゃないでしょうか」

井上尚弥の右ボディ。冷静かつ的確にアフマダリエフを削っていった　©Takuya Sugiyama

井上尚弥にヒントを与えたクロフォードのボクシング

　井上はチャンスでも倒しにいかずに自重した。打たせずに打つ。井上が最後まで貫いたボクシングの遠因を、長谷川さんは意外なところに求めた。

「あの試合の日、昼にサウル“カネロ”アルバレスとテレンス・クロフォードの試合が開催されましたよね。カネロ相手にクロフォードがけっこう足を使って、ロープを背負わずうまくサイドに動いていた。あのとき、僕はもし井上選手がこの試合をリアルタイムで見ていたら参考にするというか、意識するんじゃないかと思ったんです」

　同日ラスベガスで開催されたビッグマッチ、スーパーミドル級4団体統一王者カネロとウェルター級から3階級上げたクロフォードの一戦は、スーパースターのカネロが有利と見られていた。ところがクロフォードはカネロをうまくいなして判定勝ち。3階級で4団体統一という偉業を成し遂げた。

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