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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
なぜ井上尚弥に接近戦を仕掛けなかった? 長谷川穂積が実況席で感じた“敗者アフマダリエフの誤算”「警戒心マックスになりすぎ」「接近戦でも厳しい」
posted2025/09/21 11:04
挑戦者ムロジョン・アフマダリエフを圧倒した井上尚弥。長谷川穂積さんが語る、「アフマダリエフが距離を詰められなかった理由」とは
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
アフマダリエフの手が出なくなった“一発目のジャブ”
井上陣営はアフマダリエフを「キャリア最大の強敵」と見てこの試合に臨んだ。相手が強かっただけではない。井上は5月、無名のラモン・カルデナス(米)にダウンを奪われていたことも不安要素の一つとなっていた。ただ、長谷川さんは試合前、ほとんど心配をしていなかったという。
「アフマダリエフは確かにいい選手ですけど、僕は井上選手とは根本的にレベルが違っていると見ていました。危ないとすれば、これまでのように攻め急いで倒しにいったときくらい。そういう意味では安心して試合を迎えました」
井上は立ち上がり、一発目のジャブを的確に決めた。長谷川さんはこのパンチが一つのキーになったと見た。
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「井上選手のジャブが顔面に決まりましたよね。真ん中、ガードの隙間から。アフマダリエフはあれをもらったとき、パンチのすごさを感じて警戒心がマックスになったと感じました。警戒心がマックスになりすぎて、そのあと手が出なくなった。倒されないようにしよう。そういうボクシングになったように見えました」
互いが探り合う静かな立ち上がりながら、最強挑戦者はわずかなアクションを通じて井上の強さを感じ取ったということか。確かにその後、アフマダリエフは井上の多彩なフェイントに過剰と言えるほど反応しているように見えた。
「普段のアフマダリエフはまず相手を分析して、それから前へプレッシャーをかけていきます。ところが今回は分析しきれない、分析できない。井上選手の引き出しが多いからです。『あっ、いける』と思った瞬間でも井上選手は常に狙っている。何も考えてないような雰囲気を出しながら狙っているんです」

