「最後の望みを絶たれ…沈んだ表情に」アフマダリエフが井上尚弥に心を折られた瞬間…元世界王者・飯田覚士の見解「中谷潤人選手はやりにくいと思ったでしょうね」
 

最終12ラウンド、ヒヤリとした瞬間

　以降も井上は主導権を握り続け、アフマダリエフに打開の糸口をつかませることはなかった。一瞬、ヒヤリとさせられたのが最終12ラウンド。残り10秒を切ったところでワンツー右フックを食らった場面である。

最終12ラウンドでアフマダリエフの右を被弾し、一瞬ヒヤリとする場面も…　©Tayakuya Sugiyama

「その直前にも同じコンビネーションがありました。2回目は踏み込みがやや深く、フックの返しのタイミングを早めたため、もらってしまったのかなと。アフマダリエフ選手もさすがでした。完璧に封じ込められたなかでも、意地を見せようとした。僕もこのシーンを見て、やっぱり怖いボクサーだなと思い直しました。もしこれまでの尚弥選手のように倒しにいっていたらどこかで巻き込まれていたかもしれない。彼の良さまで引き出してしまっていたかもしれない、と」

　井上が油断していたわけではなかったはず。強打を誇るアフマダリエフがそれだけ警戒しなければならない相手だったということか。

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「試合を通じて尚弥選手はいろんなことをやっていました。頭の位置、ガードの位置を変え、ステップの踏み方、フットワークの仕方、重心の位置……。スティーブン・フルトン選手が（井上の）鋭い踏み込みをさせないように前足を伸ばして邪魔するやり方を逆に取り入れてみたりもした。これだけたくさんの引き出しを見せた尚弥選手が凄いんですけど、裏を返せばアフマダリエフ選手がそれらを引き出せたとも言える。内容は一方的であっても、見どころたっぷりのレベルの高い一戦だったことは言うまでもありません」

アフマダリエフを完封した「最大の要因」

　飯田いわく「最上級に攻めまくるアウトボクシング」。強者アフマダリエフを完封できた最大の要因を尋ねると、飯田は「強いていうなら」と一つのポイントを挙げた。

「僕が思うに、アフマダリエフ選手の左、特にオーバーハンドは怖かったと思うんです。いきなりの左ならさほど怖くない。なぜなら見えるし、強振すると到達には時間が掛かるから反応できる。怖いのは右からつないでくる左。ならばと（左につなげる）ジャブを出させないように徹底していました。自分のジャブのほうが速くて強いんだと印象づけて、駆け引きでも封じて、さらには前の腕をつっかえ棒のようにして出しっ放しにして、（右ジャブの）軌道に入れていました」

　徹底したジャブ封じ。それが圧倒的勝利のベースにあったというわけである。

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