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「もう一度日本から世界で活躍する選手を育てたい」。伊達公子が挑むジュニアテニス育成プロジェクト、ふるさと納税で広がる支援の輪

posted2025/10/03 11:30

 
「もう一度日本から世界で活躍する選手を育てたい」。伊達公子が挑むジュニアテニス育成プロジェクト、ふるさと納税で広がる支援の輪<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

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福田剛

福田剛Tsuyoshi Fukuda

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Yuki Suenaga

世界で戦えるテニス選手を育てるために伊達公子とヨネックスが2019年に立ち上げた伊達公子×YONEX PROJECT。プロジェクトや大会開催に協力してくれる自治体への想いを語った。《岐阜国際ジュニア大会の応援はこちら

 厳しい夏の日差しが照りつける8月20日。新潟県長岡市にあるヨネックス パフォーマンス イノベーションセンターでは「リポビタン Presents 伊達公子×YONEX PROJECT ~Go for the GRAND SLAM~(以下、伊達公子×YONEX PROJECT)」の3期生たちが卒業キャンプを迎えていた。

 伊達公子×YONEX PROJECTは、元世界ランク4位のテニスプレーヤー伊達公子とヨネックスが、世界で戦えるテニス選手を育てるために2019年に立ち上げたジュニア育成プログラム。オーディションで選抜されたジュニア選手は2年間、計8回のキャンプに参加し、伊達公子をはじめ、石井弥起、近藤大生など世界のテニスを知るプロスタッフの指導を受けることができる。

日本でも世界で戦える選手を育てることはできる

 伊達がこのプロジェクトを立ち上げたのは、「日本から世界に行ける選手を育てたい」という強い想いがあるからだ。

「今の若い選手は海外のアカデミーに行ったらそれだけで強くなれると考えがちです。もちろん海外で成長する選手もいますが、私の海外経験は高校2年生で韓国、3年生でオーストラリア、アメリカ、ヨーロッパにそれぞれ1度ずつ遠征しただけでした。今や日本でもテニスをプレーする環境は整ってきていますし、世界に目を向けている指導者も増えています。日本でも世界で戦える選手を育てることはできるはずです。もう一度、“日本から世界へ”を実現したいと思っています」

 ジュニア選手とはいえ世界を目指すためには、当然、それなりの覚悟が求められる。

「今は情報があふれている時代なので、みんな1位になりたい、グランドスラムで優勝したい、強くなりたいと、口にします。でも中途半端な気持ちで立ち向かえる世界ではないというのは、私自身が見て、知っているので、選手たちに良いことだけを言うつもりはありません。ただ、それでも人生を懸けるだけの価値があるとも思っているので、より多くのジュニアたちに世界を目指してほしいし、グランドスラムのコートに立ってほしい。そのためには私にしか伝えられないものがあると思っています」

考える力を養う

 世界で闘ってきた伊達にしか伝えられないもの、それは考える力を養うこと。

「技術的なことは私より指導に長けているコーチがいるのでそちらにお任せして、私は試合に入るまでの心の持ち方だったり、練習に取り組む姿勢といったメンタルの部分をアドバイスしています。といっても自分自身でどうすればいいのかを考えられるようにあえて細かく指導するのではなく、ちょっとした言葉で気付きを与えるように心がけています。ジュニアの間は両親やホームコートのコーチに支えられていますが、プロになればオンコートはもちろんオフコートでも自立し、自分で考えて行動しなければなりません。世界の選手たちが自立するスピードはどんどん早くなっています。日本にいる彼女たちも世界のスピードに合わせて自立できるように、その手助けをしていくという気持ちで向き合っています」

プロになる道筋に気づけたジュニア選手

 実際に指導を受けるジュニア選手は伊達公子×YONEX PROJECTに参加したことでどんな学びを得たと感じているのだろうか。

 3期から参加した梅田巴花(中2)は「プロジェクトに参加して格段にレベルが上がった」と教えてくれた。

「ふだんは周りにプロを目指しているような選手がいなかったので、このプロジェクトに応募しました。キャンプに参加できるようになり、他のメンバーのレベルが高くて、より高みを目指したいと思うようになりました。コーチたちからどうやったらテニスが上手くなるのか、プロになるためには何が大事なのかを教えてもらうことができました。まずは国内のタイトル、そしてグランドスラムジュニア出場を目指します」

 2期から参加し、将来はグランドスラムを目指す石井心菜(高1)は、「プロジェクトに参加したことでプロテニスプレーヤーになる道筋が見えるようになった」と話す。

「伊達さんにはいつも『もっと頑張れるよ』って言われているので、常に『もうちょっと頑張る』を意識しながらテニスをしています。キャンプでは歳の近いメンバーも多く、負けられないという刺激をもらうことができました。まずはグランドスラムジュニア、そして最終的にはシニアのグランドスラム出場を目標に頑張っていきます」

世界への道を切り開く大会の創設と自治体の協力

 日本から世界へ羽ばたく選手を育成するために、伊達が取り組んだのは育成プログラムだけではない。2020年にリポビタン国際ジュニア(愛媛)、'21年には岐阜国際ジュニア、'22年にはリポビタン国際ジュニア(久留米)と3つのITFジュニア大会を新設した。

 そもそも選手がジュニアの最高峰の舞台であるグランドスラムジュニアへ出場するためには、ITFジュニア大会に出場し、ポイントを獲得する必要がある。しかし、プロジェクトがスタートした当初は日本国内で開催されるITFジュニア大会は数が少なく、ポイントを持っていない選手は大会に出場することさえできない状況だった。

「プロジェクトを立ち上げるまではジュニアに関わったことがなかったので、日本国内には国際大会の入口となるジュニアの大会が少ないことを知らなかったです。プロジェクトを進めていく中でやはり大会が必要だと気づいたのですが、早急にこの状況を変えるためには大会を作るしかありません。しかも、ただ数を増やせばいいのではなく、必要な時期に必要な場所で開催されること、そして何よりも長く続けていくことが大切です。そのためには自治体や企業のサポートが絶対に必要です。そこで現役の頃からご縁のあった岐阜市と松山市、そして久留米市に協力をお願いして大会を作り、みなさまのご協力のおかげで継続して開催できています。私たちの活動を理解し、応援してくださるみなさまがいるのはすごく心強いです」(伊達)

ふるさと納税で岐阜国際ジュニア大会を応援

 伊達が新設した3大会のうち、岐阜国際ジュニアをサポートする岐阜市では、大会を持続可能なものとするために、今年から新たな取り組みをスタートした。それがガバメントクラウドファンディング®(GCF®)だ。

 ふるさと納税を活用したクラウドファンディングの仕組みで、寄付金は税控除の対象となる。

 岐阜市がGCFに岐阜国際ジュニア大会を認定したことで、日本全国からふるさと納税の仕組みを使って誰でも大会をサポートできるようになった。

 岐阜市役所でスポーツ振興を担当するぎふ魅力づくり推進部の田川智史部長は「この仕組みを通じてさらに『市民が誇れる大会』へと持続的に発展してほしいと考えています」と、GCFへの期待を寄せる。

「岐阜国際ジュニア大会は、次世代アスリートの育成や国際交流、地域の活性化という多面的な価値を持っています。だからこそ、その価値に共感してくださる方々と共に大会を育てていくことが重要と考えています。寄付を単なる財源確保で終わらせるのではなく、寄付者の想いを大会に反映させ、支援の輪を広げていくきっかけにしていきたいです」(田川)

 大会の創設に携わった伊達は、今回のふるさと納税の取り組みをきっかけに多くの人に「ジュニアの選手たちの成長を一緒に楽しんでもらいたい」と言う。

「まだ活躍しているプロでもない、ましてや世界に行っているわけでもないジュニア選手なのですが、彼女たちが成長する姿を見ているとワクワクしてくるのです。未知数だからこそ、同じ熱量を感じられるというか……。私もそこそこいい年になりましたが(笑)、自分のこと以上にワクワクできるものがあることがとても新鮮で、だからこそジュニアの育成にエネルギーを注ぎ続けていられるのだと感じています。次世代、そして未来のために。一緒に選手たちの成長を見守りながら、サポートをしていただけたら嬉しいです」

 

私たちも岐阜国際ジュニア大会をサポートします

「岐阜国際ジュニアテニストーナメント2025 Supported by KIMIKO DATE × YONEX PROJECT」を支えるセイノーホールディングス、岐阜市から届いたメッセージを紹介。

田口 義隆田口 義隆
セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長(兼 西濃運輸株式会社 代表取締役)1985年 西濃運輸に入社。取締役グループ企画室長などを経て、2003年 代表取締役社長に就任。2005年より現職。
岐阜から世界へ羽ばたく才能を支えたい

岐阜国際ジュニア大会は、未来のトップアスリートを育てる舞台であり、ジュニア選手たちが夢に挑戦する第一歩です。皆さまの応援は選手の努力を支え、成長を後押しする大きな力になります。西濃運輸も地域企業として、大会の運営や選手サポートに取り組み、地域と大会、そして選手をつなぐ役割を担っています。ぜひ共に応援し、岐阜から世界へ羽ばたく若き才能を育て、地域の誇りとなる大会にしていきたいと考えています。

田川 智史田川 智史
岐阜市役所 ぎふ魅力づくり推進部部長 1997年 岐阜市役所に入庁。企画部次長兼総合政策課長などを経て、2023年 ぎふ魅力づくり推進部長に就任。
“市民の財産”として受け継がれる大会へ

本大会はジュニア選手が技術を磨き、国際舞台への第一歩を踏み出す貴重な機会であるとともに、地域の子どもたちに世界へ挑戦する夢を与える場であり、市民にスポーツを通じた誇りや感動を届ける場でもあります。皆さまの応援は若者たちの挑戦を支え、未来のトップアスリートを育む力になります。岐阜市としましても、地域と大会が一体となり、“市民の財産”として受け継がれる大会になってほしいと願っています。

『岐阜から世界へ』未来のトップアスリート発掘・育成 伊達公子プロジェクトはこちら

ガバメントクラウドファンディング®(GCF®)は、2013年に株式会社トラストバンクが提供を開始した、クラウドファンディング型でふるさと納税を募る仕組みです。自治体が地域課題解決のためにプロジェクトを立ち上げ、寄付者は使い道を選んで応援することができます。2025年9月29日時点で寄付総額は222億円を突破し、約4,010プロジェクトが実施されました。「2019年度グッドデザイン賞」を受賞。

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