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鬼才ニューウェイと風洞施設を手に入れ鼻息荒いアストンマーティンは新レギュレーションの来季、トップチームに肩を並べられるか
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2025/08/06 11:00
ウィリアムズ、マクラーレン、レッドブル、数々のチャンピオンマシンをデザインしてきたニューウェイは12月には67歳になる
アストンマーティンが26年に大きな期待を寄せるのは風洞施設だけが理由ではない。その施設を使ってマシンを開発するデザイナー陣に、『空力の鬼才』と呼ばれるエイドリアン・ニューウェイがマネージング・テクニカル・パートナーとしてアストンマーティンに加入したことも大きい。
66歳のニューウェイは、これまでウイリアムズ、マクラーレン、レッドブルといった名門チームで合計200回超の勝利に貢献し、合計26回のドライバーズおよびコンストラクターズタイトルに関与してきたF1史上最も成功した技術者だ。
コーウェルはこう語る。
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「エイドリアンが風洞施設の中に入ってきて、さまざまな測定機器やモデルカーを真剣に見ていた。その後すぐに彼は自分のエンジニアリングオフィスに戻り、26年のレギュレーションを見ながらしばらく製図板に向き合っていた。その光景を見て私はとてもうれしくなった」
ニューウェイの総決算
デジタル化が進んだ現在、多くのデザイナーがコンピュータを駆使してマシンをデザインする中、ニューウェイはいまなお、製図板にドローイングしている。それゆえ「製図板を使用している最後の恐竜だろう」とも言われている。
一方で、もはやニューウェイの時代は終わりに近づきつつあり、26年に向けてはあまり期待しないほうがいいとする声もある。
アストンマーティンのパーティの席で、スタッフのひとりから「ファクトリーの中を見学するツアーを行っているので参加しませんか?」と誘いを受けた。ファクトリー内は撮影は厳禁。ただし、普段立ち入ることができないF1チームの開発の最前線の様子を見るのもいい経験だと思い、参加した。
2階へ上がるとファクトリーの中で最も広いスペースがガラス越しに見えた。案内してくれたスタッフは「ここはデザインオフィスです」と説明した。メディアを招待して見学ツアーも実施するということで、デザインオフィスに従業員はおらず、置いてあるコンピュータの電源も落ちていた。
薄暗いデザインオフィスの右奥に、ライトが灯っているガラス張りになっている個室が見えた。中には製図板に向かっている者がいた。ニューウェイだ。
おそらく最後の大仕事になるであろう26年に向けたプロジェクト。そのモチベーションはいまなお失われてはいない。

