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長嶋茂雄との関係「すっかり冷たいものに…」野村克也が生前に明かしていた“なぜ巨人を挑発した?”「昨日、銀座の女の子が…」長嶋と野村の会話
text by

阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/26 11:06
1990年代、野村克也が率いるヤクルトと、長嶋茂雄が率いる巨人はライバル関係にあった
たとえば、私は、打席に立つ選手に、ひとりごとをつぶやいたり、話しかけたりして心理的な動揺を誘う「ささやき戦術」をよく使ったが、長嶋には全く通用しなかった。こちらが「昨日、銀座の女の子が」などといっても、「いやあ、ノムさん、元気?」などと、全く関係のない答えが返ってくる。打席の長嶋は完全に自分の世界に入っているのだ。私はこの男にはささやきは通用しないと、以後、使うのを止めてしまった。
集中の仕方も独特だった。普通、打者はバットのマークを自分のほうに向けて握り、途中で動かすようなことはしない。ところが、長嶋は、あるとき観察すると、手の中でバットをクルクル回しているのだ。そんな落ち着きのないことで打てるのかと思うのだが、それできちんと安打が出る。常識を超えた才能だと驚いた。
長嶋は天才か? 野村の見解
打者の理想形は、ストレートを待ちながらどんな変化球にも対応できることである。スイングのスピード、目のよさ、身体的能力などの総合的な才能が高いレベルで必要になる。イチロー、松井など限られた才能の持ち主だけが、この理想形を実現できる。長嶋もそうした特別な才能の持ち主だった。
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多くの打者はそれができないから、配球を読んだり、タイミングの取り方を工夫したりする。カーブ打ちが大の苦手だった私が配球に注意するようになったのは当然なのだ。工夫するには理屈が必要だ。しかし、そうした工夫のいらない選手は、理論も必要ではない。私は長嶋と面と向って打撃論を交わしたことはないが、仮に聞いたとしても、明確な答えは返ってこないだろう。
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