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朝倉未来の復活「観客動員は井上尚弥vs.ネリに匹敵」なぜファンは熱狂したのか? RIZIN新王者は酷評「つまらない試合」評価が分かれる“本当の理由”
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布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2025/05/09 17:40
引退を撤回し、鈴木千裕を相手に復活勝利を飾った朝倉未来。東京ドームに集った4万人超のファンを熱狂させた
なんという熱量。この日、東京ドームに集まったファンは「連敗中」というシビアな現実よりも、「我らのカリスマはいかにして復活するのか」ということをテーマに観ていたのだろうか。
新王者は酷評「つまらない試合」評価のギャップ
試合後、インタビュースペースに現れた朝倉は意外な言葉を口にした。「全然楽しくなかった」というのだ。試合前は「楽しみたい」と語っていたのに、いったいなぜ?
「いや、あんなに振り回してきたので。(当たったら)危ないじゃないですか。こっちも必死でしたよ」
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確かにいつも以上に鈴木のパンチは大振りが多く、クリーンヒットしたら致命的なダメージを受けるだろうと思わせる一撃も含まれていた。朝倉に言わせると、その中にさらに別の種類のパンチも混ざっていたという。
「パンチは見えにくかった。大振りの中に、ノーモーションみたいなパンチも入っていた。そっちに気をとられていると、外から(大振りの)パンチが来る。それでも、かなり見えていた気はします」
試合はテイクダウンを奪った朝倉がコーナーサイドでトップをとり、鈴木にパウンドを見舞うシーンが目立っていた。もちろん鈴木が必死の形相でスタンドの打ち合いに持ち込もうとする場面もあったが、大半の時間はグラウンドで消費された。
試合後には「2ラウンド以降はレフェリーがブレイクをかけ、もっとアグレッシブな攻防を促しても良かったのでは?」という声もあがった。筆者もその意見に一票を投じたいが、完全に膠着していたわけでもないため、スタンドに戻す判断は難しかったのだろう。
リアル・アウトサイダーとして朝倉の生き方は非常にわかりやすく魅力的で、多くの若者層に影響を及ぼし、支持されている。しかし、この一戦での朝倉の闘い方は、徹底的に勝利という結果にこだわるものだった。本人のキャラクターとは裏腹に、地味だったとさえ言える。
そのせいだろう。次のメインイベントでクレベル・コイケを62秒でKOしてRIZINフェザー級王座を奪取したラジャブアリ・シェイドゥラエフは、朝倉vs.鈴木を「ちょっとつまらない試合でした」と一蹴した。
ハッと気付かされる思いがした。おそらく朝倉や鈴木、あるいはRIZIN全体が持つサイドストーリーを把握していなければ、この一戦を楽しむことはできなかったはずだ。その意味でいえば、王者になったとはいえ、シェイドゥラエフはまだ“よそ者”なのかもしれない。朝倉と鈴木は、それぞれのヒューマンドラマを試合に織り込むことで、内容以上に見応えのある“作品”に仕立て上げた。


