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「新日本プロレス、“急ぎすぎ”では?」後藤洋央紀の“意外な挑戦者指名”に複雑な反応「観客とリズムが合ってない」カギを握る“ふたつのIWGP戦”
posted2025/04/10 17:00

フォール勝ちした海野翔太はリングで大の字の棚橋弘至に感謝する。4月5日、両国国技館
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原悦生Essei Hara
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Essei Hara
『NEW JAPAN CUP』優勝者のデビッド・フィンレーを破ってIWGP世界ヘビー級王座3度目の防衛に成功した後藤洋央紀が、次の防衛戦の相手として指名したのは意外にも海野翔太だった。
観客と新日本の“感覚のずれ”「展開が急速すぎた」
4月5日、両国国技館。盛り上がっていた観客は驚きにどよめいた。そして、後藤の呼びかけに海野が姿を見せると、またしても一部からブーイングが沸き起こった。
海野はふたたび難しい現実に直面してしまった。
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第3試合で引退ロードを歩んでいる棚橋弘至とシングルマッチで対戦し、フォール勝ちした海野は仰向けに倒れている棚橋に頭を下げた。これはセレモニー的な時間だった。ファンは沈黙してこの光景を見守っていた。
「棚橋さん、オレの選択肢はたった一つだ。新日本プロレス本隊こそが聖域だ!」
海野は引き上げていく棚橋にもう一度座礼した後、両国国技館の四方の観客にお辞儀をしたが、ブーイングは起きなかった。不思議な静けさは海野への声援と、少しの拍手に変わっていた。
ここまではよかった。
だが、展開があまりにも急速すぎた。
新日本プロレス「棚橋丸」は何をそんなに急いでいるのか。2月の大阪での熱狂で勢いづいたと思われた観客数が伸び悩んでいるからだろうか。この日の国技館の観衆は6640人。2階席の四隅には大きな空席があった。
観客と新日本プロレスのリズムが、なぜか合っていない。
この不思議な“感覚のずれ”が今後の新日本「棚橋丸」にどう影響するかは微妙なところだ。
「翔太、もっとストレートでいいと思うぞ。自分の気持ちを、自分のファンへの愛情を、新日本プロレスのファンの皆さんへの感謝を、しっかり伝えればいいんだ。それだけだ。これからな、本当に、レスラーとしても、人間としても、とっても大きいこと、いろんなこと、大変なことがあると思う。でも、それを撥ねのけて、ファンの皆さんに夢を与えるのが、元気づけるのが、エネルギーを届けるのが、プロレスラーだからな。それだけを忘れないで、それをここ(胸)にしっかり持ってな、頼むぞ」
棚橋は海野に優しかった。これは新日本を海野に託したという意味にもとれた。