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173cmの長身でも、「ひとりだけムキムキ」な筋肉でもなく…走高跳“39年ぶり室内日本新”高橋渚(25歳)は何がスゴい? コーチも「群を抜いている」 

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別府響

別府響Hibiki Beppu

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2025/04/12 11:00

173cmの長身でも、「ひとりだけムキムキ」な筋肉でもなく…走高跳“39年ぶり室内日本新”高橋渚(25歳)は何がスゴい? コーチも「群を抜いている」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

2月にチェコの競技会で39年ぶりとなる室内日本最高記録を更新した高橋渚(センコー)。日本人としては12年ぶりの1m90cm越えの記録でもあった

 実際、跳躍成功の直後に高橋の頭に浮かんできたのは、「あ、これで修正すれば次の高さも跳べるな」という考えだったという。

「自分でもずっと『(1m)90は跳ばないと』と言ってきていて、それを跳べたらどんなガッツポーズが出るんだろう……とかずっと思っていたんですけど、周りの選手もまだ試技も続いていましたから。そこで終わりじゃないというか。そういう試合の雰囲気もあってすぐに次の高さのことを考えられたんだと思います」

 一方で、指導する醍醐コーチも不思議な感覚だったという。

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「跳べたのは全然、驚きはなかったんですよね。それだけの実力があるのは分かっていたんで。ただ、私があんまり競技中に喜びの感情を出さないタイプなんですよ。それもあっていつも周りの人から『跳べた後、もっと褒めてあげればいいのに』と言われていて」

 そんな周囲からの評判もちらついたのか「さすがに90も跳べたし、褒めてあげようと思っちゃった」と、苦笑する。

「ちょっとだけ抱き合っちゃったんですよね。でも、今思うとあれがなかったら次(1m94cm)の跳躍もたぶん跳べてたなぁとか思います」

 師弟ともに実にクール。淡々と偉業を振り返る。その姿勢からは、2人にとって今回の記録が「あくまで通過点」という思いがよく伝わってくる。

 実際に醍醐コーチが語った通り、続く1m94cmの跳躍も非常に惜しいものだった。クリアランスでふくらはぎの接触がなければ、高さとしては十分バーを越えられていたように見えた。

走高跳女王「覚醒の理由」は?

 近年、日本の女子走高跳界は停滞期にあったと言っていい。

 日本記録は20年以上前の2001年に今井美希が記録した1m96cm。女子陸上競技の主要種目では日本最古の記録となってしまった。

 スパイクをはじめとした道具や、トレーニング法が進化し続ける陸上競技の世界にあって、女子走高跳だけがその時代の進化から取り残されてしまっていた。高橋も日本選手権3連覇を達成するなど、日本のトップジャンパーであり続けた一方で、1m90cmという「壁」をなかなか越えられずにいた現状もあった。

 だが、ここへきてようやくそんな停滞に風穴を開ける可能性を見せてくれた。

 では、高橋が新たな一歩を踏み出せたウラには、一体何があったのだろうか?

<次回へつづく>

#2に続く
「人より不器用なんです。だから…」“フェアリージャンパー”高橋渚(25歳)が走高跳で39年ぶり室内日本最高記録…本人が語った「進化のワケ」

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