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「この人、何やってんだろう(笑)」三浦璃来も驚いた木原龍一のガッツポーズ…りくりゅう「あなたたち、お葬式みたいね」から“涙の世界一”に返り咲くまで
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野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byGetty Images
posted2025/04/08 17:00

フィギュアスケート世界選手権で2年ぶりに優勝したりくりゅうペア
「今日は、ウォーミングアップやバスの移動の時間も2人で楽しんで、程よい緊張感で自分を追いつめることもなく、演技に臨めました」
三浦も、演技への手応えを口にする。
「最初の頃、このプログラムは滑り切るのに精一杯で、難しいさがありました。でも何回も練習を重ねて、自分達の方向性も見えて、今日は私達らしい滑りを音楽に重ねることができました」
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そう話しながら、お互いを見つめ合う。そして木原が、自分に言い聞かせるように、言った。
「この大会は、練習も試合も『楽しむ』ということをテーマにやっています。少しでも上に行きたいという気持ちはありますが、逆に、フリーも僕達が楽しんでいる姿をお客さんに届けたいと思います」
「1に睡眠、2に睡眠、4番に食事です」
ショート後の会見で、『明日のフリーに向けて必要なことは?』と聞かれると、木原が冗談をまじえて答える。
「1番は睡眠、2番に睡眠、3番に睡眠、4番に食事です」
それを聞いて、三浦がふふふと笑った。
会見が終わったのは、夜の11時すぎ。そしてフリーの公式練習は翌朝9時20分から。木原の言葉に忠実に、三浦は部屋に着くと衣装とタイツを帰国用のスーツケースに投げ入れて、寝た。
「疲れていて、ちょっとホッとしたのもあって、脱いでポイッてしました」
翌朝、起きてすぐに公式練習へ。しかし三浦が女子ロッカーでキャリーケースを開けると、フリーの衣装は入っていたが、タイツが無かった。
「いきなり男子ロッカーのドアをドンドンドンって叩いて、『龍一くん!』って言うんです。『これはなにかやらかしたな』と思いました。『タイツ忘れた』っていうから『じゃあ衣装着れないの?』って聞いたら、『うん、着れない!』だって」(木原)
パンツ姿の練習着とスカートの衣装では、腰のホールドの感触が違う。そのため、公式練習で衣装を着て、木原の手の感覚を調整することが重要だった。仕方なく、練習着のまま公式練習を滑り、ホテルの部屋に戻ってから、三浦が衣装に着替えてホールドの確認を行った。
「あのとき僕が直感的に、怒らなかったんです。シーズン前半だったら『試合に影響するじゃん、なんでこんな時に』って、イラっとしていた。でも『これが三浦さんなんだよな、通常運転(笑)』と思えた。それで、ああ僕は大丈夫だって思えたんです」
二人にとっての「パートナーシップとは?」
フリーの本番。三浦は赤いドレス、木原は黒い衣装に身を包み、登場。リンク中央でギュッと握手をしてから、スタートポーズをとった。『アディオス』の情熱的な音色に乗り、スピードのリミットを突破するように滑り出す。得意とするスロージャンプで2本で着氷がやや乱れたが、転倒のような大きなミスはなく、世界観を保ったまま滑りぬいた。