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「この人、何やってんだろう(笑)」三浦璃来も驚いた木原龍一のガッツポーズ…りくりゅう「あなたたち、お葬式みたいね」から“涙の世界一”に返り咲くまで
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野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byGetty Images
posted2025/04/08 17:00

フィギュアスケート世界選手権で2年ぶりに優勝したりくりゅうペア
「シーズン前半戦は『より良いものを』という気持ちが強過ぎて、それを出来ない自分に対して、凹んでしまっていたんです。自分の目標設定があまりにも高くなりすぎて、何をやっても『こんなんじゃ駄目だ』としか思えなくなっていました」
ぎくしゃくした関係は、全日本選手権まで続いた。優勝が決まっても、キス&クライでは少しも笑わず、2人はうなだれた。
すると、その場面をテレビで見ていた木原の母が「あなたたち、お葬式みたいね」とメッセージを送ってきた。その一言がきっかけになった。
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「その言葉で、『楽しかったはずのスケートだったのに、いつの間にこんなに辛いものになっていたんだろう』と、ハッとしたんです。振り返ってみると、僕個人の問題でした。去年の世界選手権で2位だったことを悔やみ続け、そのために今季は何をやっても自分を責めていました。それに気づいてからは、『去年は怪我があったのによく頑張った』と自分達を認めて、『そうだ、スケートは楽しいものなんだ』と、思い出すことができたんです」
思考の転換をし、木原が笑顔を取り戻すと、三浦にも笑顔が戻った。三浦は言う。
「私はいつも木原君に引っ張ってもらっているので、彼に余裕があると、私から冗談を言ったり、たくさん話しかけることができます。シーズン前半は、そういう普通の会話が少なかったと思います」
ブルーノ・マルコットコーチも、同じように2人に声をかけた。
「龍一がサポートをできる余裕や、スケートを楽しんでる様子を見せていると、璃来も笑顔になるんだよ」
笑顔を取り戻した2人は、世界選手権に向けて、もう一度、気持ちを話し合った。
「僕は三浦さんに出会い、ペアを組んでから、トップの選手と滑れるだけですごく嬉しかったんです。ありがたいことを色々と経験させてもらっていると、最初の気持ちが薄れてしまうもの。4年前の世界選手権で初めてフリーを滑ることが出来たときの、あの嬉しさを思い出して、試合に臨みました」
練習も試合も「楽しむ」をテーマに
迎えた世界選手権。ショートプログラムの6分間練習では、口元に笑みをたたえながら滑る2人の姿があった。『黒くぬれ!』の曲に乗り、いつものスピード感と切れ味ある身のこなしで、氷上を疾走していく。表現としては笑顔を見せるものではない。しかし心の中は、2人で滑ることができる幸せを感じ、繋がっていた。
ショートは76.57点で首位発進。演技を終えた木原が、にこやかに答える。