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「泣いても泣いても…」坂本花織が世界選手権2位で抱えた“悔しさの正体”…過去にもあった「屈辱的」な敗北からの復活劇
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/02 17:13
世界選手権で2位となった坂本花織は、悔しさを隠さなかった
ただ、逆転することはかなわず、優勝には届かなかった。
立ちはだかったのはショート1位、最終滑走のリュウだった。7本あるジャンプはすべて成功。スピン、ステップでもすべてで最高のレベル4。出場選手の中でただ一人、すべての要素のGOE(出来栄え点)で加点を得た。完璧な滑りでフリーでもリュウが1位、総合得点は222.97点。その時点でトップにいた坂本の217.98点を上回り、世界選手権初優勝を遂げた。リュウは北京五輪に出場したのちに競技生活から退き、ブランクを経て今シーズン復帰した。その足跡を含め、劇的な滑りだった。
「涙が止まらない」坂本が抱えていた感情の正体
試合を終えて、坂本は涙が止まらなかった。
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「演技の直後は、自分でもよく頑張ったなっていう感情で、その後の4人の演技を見て感動しすぎて何か感情がよく分かんなくなって。でもアリサがパーフェクトの演技をして『これはもう負けたな』って。ほんとうにアリサの優勝はうれしかったんですけど、うれしいという気持ちの後に悔しすぎて今まででいちばん悔しかったなっていうのがあって、泣いても泣いても涙が止まらないぐらい」
整理がつかないくらい、いろいろな感情に襲われた。みんなの、何よりもリュウの演技を称える気持ち。負けたとしてもリュウを心から称える光景に、その気持ちは十分に表れていたし坂本のトップスケーターたる心根と姿勢があった。一方で優勝できなくて悔しい気持ちもあふれた。素直に、どちらの気持ちもおぼえた。だから涙が止まらなかった。
「こんなに悔しい試合になったのは、久々でした」
その言葉は、2019-2020シーズンを思い起こさせた。平昌五輪や世界選手権出場を経て日本の中心に位置する一人となっていた坂本は全日本選手権で6位に終わり、世界選手権代表を逃したシーズンだ。


