甲子園の風BACK NUMBER
「体は大きくなってしまいましたが」消えた“甲子園史上最高のセカンド”町田友潤34歳の児童福祉改革「髪型、服装、ネイル自由。残業ほぼなし」
text by

間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2025/02/25 11:02
常葉菊川時代の町田友潤さん。センバツ優勝と夏準優勝を経験した名二塁手は今、児童福祉の道へと歩んでいる
町田さんが重点を置くのは「スタッフ満足度」。スタッフが仕事に充実感や達成感を抱けなければ、子どもたちや保護者を満たせない。スタッフ満足度は事業所を利用する親子の満足度に直結するのだ。
働きやすい環境を整えるため、町田さんは福祉のネガティブなイメージを変えている。
事業所はモデルハウスのようにきれいで居心地が良い。事業所の利益は給料アップに反映し、残業もほとんどない。ワーク・ライフ・バランスを大切にし、スタッフが熱中する趣味や職場以外の活動もサポートする。例えば、男性スタッフがウエイトトレーニングにハマってボディメイクの大会に出場した際は、町田さんをはじめとする経営陣が大会の会場まで応援に行った。
ADVERTISEMENT
「どんなにやりがいのある仕事でも職場環境や待遇に満足できなければ、スタッフは離れてしまいます。給料はどんどん上げていきたいと思っていますし、働きやすい環境を整えて福祉のネガティブなイメージを変えていきたいです」
髪型、服装にネイルも自由にしたワケ
スタッフの髪形や髪色、服装やネイルを常識の範囲内で自由にしているのも、働きやすさの一環だ。仕事に支障をきたさなければ、服や髪形を好きに選べた方が前向きに働けると町田さんは考えている。必要以上に制限をかけて福祉に興味のある人材が離れてしまったら、結果的に業界の損失となる。
服装や髪形を自由にしたことで思わぬメリットもあったという。
事業所に来る女の子たちと女性スタッフの距離が、今まで以上に近くなったのだ。町田さんは「女性スタッフがかわいいネイルをしたり、髪の色を変えたりすると、小、中学生の女の子が『大きくなったら私もやりたい』と興味や憧れを持ちます。良い影響が出ています」と語る。知識やサービスの面ではスタッフに高いハードルを課し、それ以外の面は大らかにするメリハリでスタッフのモチベーションを高めている。
「私たちの事業所の利用者さんが増えているのは、スタッフの質が高いところが最大の理由です。自分1人では到底できません。若手、ベテラン、未経験者あらゆるスタッフが自分の役割を果たして、良いチームになっていると感じます。未経験者は福祉の経験が長くなると気付かなくなる視点を持っているので貴重な存在です。色んな視点や考え方があると、改善や成長につながります」
日曜夜が全然憂鬱じゃないんです
2017年に起業した当初、事業所の利用者は定員10人に対して3人しか集まらなかった。
そこから口コミを中心に子どもたちが増え、今は5つの事業所で100人を超える。定員はいっぱいで、新規の受け入れができないほどになった。野球を辞めるまでは勉強の習慣がなかったという町田さんは福祉やビジネスについて学び、今では経営者としてスタッフの生活や子どもたちの未来を支えている。周囲が想像する以上の努力を継続しなければ、現在の姿はないだろう。だが、「しんどい、つらいとは思わなかったですね」と笑顔で言い切る。


