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「大食いは“食事の延長”ではない」TV大食いを“スポーツに変えた”フードファイター・小林尊の本音…細身の素人大学生が見せた「伝説のデビュー戦」 

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荘司結有

荘司結有Yu Shoji

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2025/02/17 11:00

「大食いは“食事の延長”ではない」TV大食いを“スポーツに変えた”フードファイター・小林尊の本音…細身の素人大学生が見せた「伝説のデビュー戦」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「大食い界のプリンス」と呼ばれた伝説のフードファイター・小林尊のインタビュー(第1回)

「家賃を滞納していて…」魅力的だった“優勝賞金50万円”

 それから程なくして、一本の電話が入った。相手は「TVチャンピオン」の制作会社の社員。聞けば、小林の交際相手からテレビ東京宛に「優勝者の記録を塗り替えた男がいる」との手紙が届いたのだという。

 当時、小林は大学4年生。最後の思い出づくりにと出場を決めた。しかし、その裏には大学生カップルの切実な事情もあったようだ。

「その頃、僕が住んでいた大学の寮とは別に、彼女と同棲する部屋を借りていたんです。ただ、お互いバイトもまともにしていなかったから、家賃を3カ月分くらい滞納してしまって。電気とガスも使えなくなりました。

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 電気はまだよかったんです。暗くなる前に物の位置を覚えておけばなんとか生活できるので。あとはロウソクの灯りですよね。で、最後に水道が止まったときにこれはもうヤバいなと……」

 優勝賞金は50万円。22歳の小林は彼女との生活を守るために、会場となる北海道に向かった。

 大食い選手権は本来ならば、これまでの優勝者に加え、別で実施される新人戦の優勝者で競われる。しかし、ある選手が参加を辞退したため、小林は“飛び級”で出場できることになったのだ。

レジェンドたちを撃墜した“伝説のデビュー戦”

 2000年11月に放送された「スーパースター北海道かぶりつき激闘編」。小林は第1ラウンドの茹でたて新ジャガ30分勝負、第2ラウンドのウニイクラ丼30分勝負を順当に通過する。

「ここまでのラウンドは、周りを見ながら勝ち残るために最低限必要な量だけ食べて、胃の容量やエネルギーを温存していましたね」

 準決勝の「ジンギスカン45分勝負」に進んだのは、小林のほか、赤阪尊子、岸義行、新井和響の歴代王者たち。誰もがこの3人の決勝進出を予想するなか、小林はその真価を見せる。終盤で各人のスピードが停滞するなか、小林は飲み込むように肉を次々と口に運ぶ。残り10分。赤坂をとらえ、新井を追い抜き、そして岸をも超える。

「トップ通過できて『食べ方によっては勝てるかもな』と。新井さんや赤阪さんは野菜(※食べた量に含まれない)を一緒に食べていたのもあるけれど、お肉を噛みすぎていて時間をロスしていたんですよね。僕は噛まずに飲み込むという戦略を試してみて、あれで上手く感覚を掴めたんです」

 小林は翌日、決勝の旭川ラーメン60分勝負を制して見事優勝を果たした。

 大食いは、食べ方やペース配分などフードファイターによってそれぞれ独自の戦略があり、それは試合を重ねるごとに磨き抜かれていく。ところが小林はたった一度の経験のみで参戦し、王者となった。いわば“大食いの素人”が、デビュー戦でレジェンドたちを撃墜したのだ。

【次ページ】 「大食いは“食事の延長”ではなくスポーツ」

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