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「あえて寝不足です…ハハハ」永瀬拓矢が旧知の記者に語った“80分の本音”藤井聡太に負けても「まだまだ強くなれる」なぜ明るい口調なのか
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byNanae Suzuki
posted2025/02/11 06:02

2日制タイトル戦、そして王者・藤井聡太と向き合う感覚を永瀬拓矢が語り尽くしてくれた
「そこはちょっと微妙です。午後9時に一度寝て、10時に起きて風呂に入って、また11時に寝たんですけど午前3時に目が覚めました。そこからは30分おきに起きてしまった。普段全く夢を見ないのに、何回か見たので眠りが浅かったのかもしれない。でも過去のタイトル戦に比べればかなり眠れるようになりました」
不眠が改善しているとなれば、2日目に集中力のギアが上がらないのは永瀬の言うように経験不足ということなのだろう。
饒舌だった永瀬…「藤井さんは提示してくれるんです」
それにしてもこの日の永瀬は饒舌だった。
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ちょっと話が途切れて沈黙が訪れても、すぐに話を続けてくれる。インタビューにおける沈黙はものすごく大事で、多少はあったほうがいいと私は思っている。そこをこらえていると、相手が口を開いて重要なことを発してくれることがままあるのだ。静寂を恐れてすぐに喋ってしまうインタビュアーはいい話が聞けないと勝手に思っているのだが、インタビュイーから話してくれるのはいちばんありがたい状況である。3連敗した直後だというのに、まったく後ろ向きな話が出てこない。
「今回の王将戦は前向きな要素が多いです。藤井さんはこちらにきちんと向き合って、強くなれる要素を提示してくれるんです。我々はお互いに読みを重視しているところも波長が合います。感覚じゃないんですね。今回の王将戦は2日制ですし、読みがテーマだと言ってもいいと思います。藤井さんは元々、深く読むタイプですし、私も序・中盤の読む量はそれほど変わらないと思う。課題はやっぱり終盤戦ですねえ。もう少し集中力のギアを上げられれば違うと思うんですけど。とにかく、今シリーズは自分がまだまだ強くなれるという可能性が見えているんです」
永瀬の声は明るかった。
5カ月前との違いと「予想の10倍美味しかったですね」
とはいえ昨年の王座戦だって1日制とはいえ、藤井が相手である。その時も強くなれる要素はお互いに出し合っていたはずだ。にもかかわらず、なぜあの時の声色は切羽詰まっていたのか。「漆黒の世界」というキーワードを用いて、言葉のない世界に身を置かなくてはいけない、と自分を追い込むような発言をしていたのか。
「当時は自分の棋力が上がっている実感が全くなかったんです。それが大きな違いですね。去年の9月頃はそこが自分の棋力の頂点だと思っていたから、結果が出ないことにものすごく焦りがあった。今できることは何だろう、どうすればいいんだろう、と。でも強くなり続けている手ごたえがあれば、今は離れていてもいつか追いついて、追い越せるでしょう」
永瀬は32歳。藤井より10歳年上だが、まだまだ強くなれると確信している。
濃厚な話が続いた。ここで一息いれて、対局中に出されるおやつについて尋ねることにした。