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「フェザー級で戦える体はできている」井上尚弥が圧勝後に明かした“驚きの構想”…「じつは過去最重量だった」異例のキム・イェジュン戦“本当の意味”
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/01/25 18:15
井上尚弥の右ストレートがキム・イェジュンの顔面を打ち抜いた瞬間。4ラウンド2分25秒、文句なしの圧勝だった
変更に次ぐ変更…井上尚弥が口にした「疲れ」の正体
始まりは12月24日に予定されていた試合が、グッドマンの負傷により1カ月延期されたことだった。井上はこのときを振り返り、「10日くらい緩めようと思ったけど、体重は戻らなかった」と明かしている。試合に向けて仕上げに入っていた肉体はいったん緩めても簡単には戻らない。結局、この状態をさらに1カ月キープしたことが「どっと疲れがきた」という実感につながる。
対戦相手の変更はコンディション作りにも影響を与えた。正統派にして技巧派のグッドマンと対戦するにあたって、井上は試合発表記者会見で「グッドマン戦のキーポイントを挙げるならスピード。前回ほど体重を戻すことなくスピードを意識したボクシングをやりたい」と話していた。ところが相手がグッドマンよりも遅いキムに代わり、リカバリーの変更も余儀なくされたのだ。
試合前日「感覚で戻す」と話していたチャンピオンの当日体重は62.9kg(キムは62.1kg)。これはパワー対策として重めの設定にした昨年9月のTJ・ドヘニー(アイルランド)戦の62.7kgよりもわずかに重い。過去最重量は井上の肉体とリカバリーの進化によるところが大きいと思われるが、グッドマンが相手ならもう少し軽くしていたことだろう。
大橋秀行会長が明かした「最悪の場合は再延期も…」
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試合後、大橋秀行会長が明かした事実も私たちを驚かせた。
「実はキム選手にもしものことがあった場合にそなえてリザーブに用意していた選手が体重オーバーで来日できなかった。(昨年大みそかに)井岡選手の相手がインフルエンザで試合中止になったことを教訓にして、2月6日に会場を押さえて、最悪の場合は10日後にスライドする予定だった」
試合の延期、中止、対戦相手の変更に加え、さらなる延期の可能性もあったというのだ。WBOバンタム級王者、武居由樹(大橋)が負傷し、ダブルタイトルマッチの一つが流れたというアクシデントもあった。それでもなお、この日の有明アリーナは1万5000人の観衆で埋め尽くされた。