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「薬物逮捕の弟を救ったボクシング」“元祖・入れ墨ボクサー”がボロボロになるまでリングで戦った理由「兄貴はこんな凄い世界にいたのか」 

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栗田シメイ

栗田シメイShimei Kurita

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photograph byKenji Hayashi

posted2025/01/27 11:05

「薬物逮捕の弟を救ったボクシング」“元祖・入れ墨ボクサー”がボロボロになるまでリングで戦った理由「兄貴はこんな凄い世界にいたのか」<Number Web> photograph by Kenji Hayashi

派手なファイトスタイルと人懐っこい性格で人気を集めた大嶋宏成(2000年)

 宏成と比べると、記胤は骨格がひと回り小さい。適正階級はスーパーフェザー級あたりだったが、選んだのは一つ階級が上のライト級だった。

「兄貴がなし得なかったことを俺がやってやるんだ、という気持ちを持っていた。苦しんでいる姿を間近で見てきたので、兄と同じライト級を選択したのは自然な流れでした」

 試合のたび、記胤のセコンドについたのは兄だった。上を目指せるボクシングではない。才能がモノをいう世界であることは宏成が誰よりも理解していた。試合前に弟にバンテージを巻く時は、自分の試合よりも緊張したという。そして、家族の無事を願った。

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「才能や年齢的にチャンピオンを目指せるなんて当然思わない。でも、リングに上がる理由は人それぞれ。俺がボクシングに救われたとしたら、記胤もそうだったんですよ。練習量だけは明らかにチャンピオンクラスだった。半端ならあそこまでは出来ないですから」

 兄の心配をよそに記胤はA級まで駆け上がった。いわゆる華麗なボクシングスタイルではない。打たれるが、その倍を泥臭く打ち返す。不器用だったが、それゆえに観客の心には響いた。

 最終的には日本ランカーとの1戦までこぎつけている。結果は完敗。36歳でリングを降り、兄の成績を超えることは叶わなかった。それでもボクシングをやり切った、という充実感があった。戦歴は10戦6勝(5KO)4敗(4KO)。倒すか倒されるか、という記胤の生き様が現れている気がした。

明暗が逆転した第二の人生

 宏成は弟のセコンドにつくなど、トレーナーとしても生計を立てた。この頃には現役時代の繋がりで、俳優業なども舞い込んできた。しかし、いずれもリング上で経験したまばゆい喝采ほど心を満たさない。その“何か”を求めることで次第に酒量が増え、現役時代の貯金が底をつき、借金してまで飲み歩いた。浴びるように酒を飲み、現役である弟の寝ている顔にむけて小便をぶっかけたこともあるほど、毎夜酩酊して帰路についた。

 一方の記胤は介護職に従事しながら、結婚して父となっていた。ボクシングの世界に身を置いたことが、私生活にも好循環をもたらしたのだ。地に足のついた生活が日常となる。兄弟の明暗は、第二の人生でこそくっきりとわかれつつあった。

第3回に続く〉

#3に続く
元ヤクザ、少年院出身、“入れ墨”を消してリングに…平成ボクシングの異端児・大嶋兄弟の現在「撮りたくなる魅力が2人にはあった」

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