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「じつは俳優しながら…大工で家を2、3軒」“消えた高校サッカー得点王”大学中退後のトリッキーすぎる転身人生「世間って冷たいな、とも」
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生島洋介Yosuke Ikushima
photograph byAtsushi Ehara
posted2025/02/06 11:02

かつて高校サッカー選手権得点王に輝いた江原淳史さん。サッカーとの距離感が離れた時期もあったという
「体の痛みとの戦いと、選手権で結果を出してしまったがゆえのプレッシャーとの戦いが、ずっと続いていたように思います。もしあのころ、『選手権のことなんて忘れて、しっかり治せよ』って誰かに言われたら、ちょっとは楽になったのかなと思うこともある。やっぱり俺はこの代の得点王を取れたからこそ、応援してくれるファンの方の期待に応えたい、もっともっとうまくなりたいって思いが強かったんです」
なんとか1年目を乗り越え、2年生に上がったがもう限界だった。葛藤のすえ、夏にサッカー部を辞めた江原は、秋には大学も中退した。
「世間って冷たいなというのも味わったし、いろいろ経験できましたね。どの局面で考えても、うまくやったしよく頑張った。あそこでやめたのも正解だったと思ってます。あれ以上続けてたら、自分がもっと傷ついたかもしれないしね。逃げたと言われてもしょうがないけど、それでよかったかなと。ただ、大山(照人)先生の期待を裏切ってしまい、迷惑をかけたことは後悔しています」
俳優転身よりも…楽しかったのは“大工のバイト”
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中退後はあっという間に転身した。たまたまあった親戚の集まりで、テレビ制作会社に勤める従姉に芸能事務所を紹介されると、初めていったオーディションで『トヨタ・カローラII』のCM出演が決まる。すると続けざまに『電磁戦隊メガレンジャー』のリーダー役を務め、胃腸薬の『キャベ2』のCMにも出た。まさにトントン拍子で進んでいく俳優のキャリアは江原にとってどんなものだったのか。
「今になって思うと、当時の俺は周りに認めてもらう力が強かったというか、アプローチの仕方がわかっていたんだと思うんですよ。オーディション会場にバーンって入って、見る人たちにコイツは違うと感じさせることが。なんとなく入った世界だったけど、それまで見たことのない景色が見られて楽しかったです」
新人としては極めて順調な滑り出しだったものの、芸能の仕事に就いたという感覚はなく、この道でやっていこうという意思もなかった。また給料制だったこともあり、当時はアルバイトもやっていた。業界の人間が集うところで「顔を売れ」と事務所から斡旋された飲食店はすぐに辞めた一方で、性に合った仕事がある。
地元の先輩の手伝いで始めた大工だ。本人いわく「俳優業よりも面白かった」ほどだという。