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「こんなに飛ぶのか…正直ビックリ」大谷翔平“二刀流”を現実にした究極のゲーム「世界初1番投手初球弾」の衝撃「人生でいちばん遠くに運ばれた」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2025/01/14 17:00
日本ハム時代の二刀流。大谷は現在よりもだいぶ線が細い
「インコースを初球から振ってくることはないと考えました。スライダーを選んだのは、コースを間違えない、いちばん自信がある球種だからです」
テーマは「間違えない」こと。大谷の飛距離はけた外れで、ひとつ間違えるとスタンドに放り込まれてしまう。
「決め球のフォークから逆算しました。彼は手伸びゾーンが強いので、外のボールが少しでも甘くなったら危ない。ですから外をより遠く見せるために、インコースにしっかり投げなければいけないんです。インコースの球を振らせてカウントを稼ぎ、外を遠くに見せてフォークで仕留める」
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このプランには自信があったが、投げた瞬間「あ!」と思った。リリースした指先に違和感が残ったからだ。
「横に切るつもりが、ちょっと縦気味に切ってしまった」
「ヤバい!」と思った中田の視線の先で、大谷の長い手足が動き出していた。大きく開けた大谷の胸元に切れていくはずのボールは、真ん中付近で落ちる甘いボールとなり、最悪のシナリオが現実となった。
ものすごくゆっくり走る大谷
呆然と打球を見送った中田の視界に、やがて塁をまわる大谷の姿が入ってきた。彼は「おや?」と思った。
「ものすごくゆっくり走っていたんです。打たれた直後はわからなかったんですが、落ち着いてきてから、なるほど、と思いました。彼はすぐマウンドに上がらなきゃいけないから、喜んでいる場合じゃないんです。自分ならあんな打球を打ったら大喜びするかもしれないけど、冷静な彼は投球のことに頭が切り替わっているんです」
切り替えは、この試合の中田にとっても大きな課題となった。
「大谷選手が無失点イニングを続けているのは知っていたので、初回の1点でもかなり重く感じました。でも1点差ならまだわからない。ただ2点目を与えたら、相手が相手ですからかなり厳しいと思っていました。だからホームランを打たれたあと、全力で切り替えようとしたんです」