憧れ続けてきた舞台を目前にして、自ら梯子を下りる決断ができる選手がどれほどいるだろう。自分よりもチームのため、チームが4連覇に近づく最善の方法を選択した主将に、監督や仲間も賛辞を惜しまなかった。

「監督にはなかなかできる判断じゃないって言ってもらいましたし、それこそ実際に4連覇が達成できたので。あれでもし負けていたらどう思っていたかわからないですけど、同じ4年生や下級生が本当に良い走りをしてくれて、優勝した瞬間はすごく嬉しかったです。連覇のたすきをつなげて、心の底からホッとしましたね」

　優勝メンバーに名を連ねることはできなかったが、主将としての責任は果たした。プレッシャーに負けず、それに打ち克ったとも言えるだろう。

　大学を卒業し、社会に出て、仕事に打ち込む過程で気づいたことがあるという。努力は結果を裏切らないということだ。

「主将をやってほんと良かったと思いますね。おそらく主将をやっていなかったらあそこまで自分を追い込めなかったと思いますし、人間的にも成長できなかったと思う。社会に出てからも目標の立てかただったり、それは自分次第だなと思えるので。監督がよく言ってましたけど、本当に『人間に能力の差はなくて、あるのは熱意の差だけ』なんだなって。いま僕に求められているITのスキルも、意欲的に学んでいけばきっと追いつけますから」

現役選手へのエール

　そして、かつての自分のように箱根駅伝を目指して努力を続ける現役世代に対しては、こんなエールを送る。

「どんな立場でも、頑張ることでチームに良い影響を与えられると思うんです。最大限の努力をすれば夢の舞台に一歩近づくし、今年叶わなくても来年、再来年の走りにつながるはず。たとえ目標に届かなくても、その先の自分にとっては必ずプラスになると思うので。もし4年生なら、最後まで最上級生の生き様を見せてほしいと思いますね」

　実直な先輩を慕うように、吉永さんの後、青学大から日本生命に入社する学生が増えたという。それも彼の人間性が会社でも高く評価されていることの証だろう。

　大学の4年間で陸上競技はやりきった。悔いはない。だからこそ、こう言って笑えるのだ。

「もう一生分、走ったなって思います。今は200m先のコンビニに行くのにも車に乗っちゃったりするので」

　結婚して、現在は二児のパパ。仕事に邁進中である。