フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
「優勝は嬉しい、演技は悔しい」前人未到のジュニア4連覇…島田麻央16歳が見据える“世界女王”坂本花織「シニアの試合になれば、私は挑戦者」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAFLO
posted2024/11/23 17:01
フィギュアスケート全日本ジュニア選手権で史上初の4連覇を果たした島田麻央(16歳)
「滑走順を見たときはびっくりして。薫子ちゃんと亜美ちゃんがいるので、ジュニアGPファイナルのような刺激的なグループです。やっぱり去年まで優勝しているので『負けられない』という気持ちが、意識していなくても勝手に自分のなかのどこかで、どんどん大きくなっていきました」
迎えた本番。滑走順は、1番が和田、4番が中井、5番が島田。直前の中井の演技は、見ないようにした。中井は今季絶好調で、ジュニアの国際大会でのシーズンべストは、島田に次いで世界2位。意識せずにはいられない相手だった。
その時のことを、島田はちょっと笑いながら振り返る。
「いつもだったら、試合直前は自分の中に入り込んでしまっているので、実は濱田(美栄)の言葉はあまり聞こえていないことが多いのです。でも今回は(中井選手の)点を聞かないようにと思って、濱田先生の言葉に集中していました」
濱田先生の言葉を信じて…
濱田コーチから言われた言葉は、「エルファバになりきって、楽しく滑って」
エルファバとは、ショートで演じるミュージカル「ウィキッド」の魔女の役。今年8月に劇団四季の公演を観に行き、エルファバ役を演じる江畑晶慧さんと小林美沙希さんから伝えられたアドバイスを思い出した。
「夏にお会いできた時に、お二人にたくさん質問をして、『エルファバの演技をしているときはなりきっていて、自分じゃないから緊張しないよ』と言われたのです。今日は自分のままでいたら絶対緊張に負けてしまうと思い、濱田先生の言葉を信じて『エルファバになりきろう』と思いました」
濱田コーチの言葉を胸に、滑り出す。3つのジャンプはパーフェクトで、緊張していることを周りに感じさせないほど安定していた。
「今までは、ジャンプの前は『ジャンプに100%集中する』と意識しないと跳べないと思っていました。でも今回、ジャンプに入るまではエルファバになりきって楽しんで滑っていても跳べるんだ、ということが分かりました。今後はそうしていきたいなと思います」
ジャンプが終わったあとは、自信のあふれる笑みでステップを演じ、演技を楽しんだ。
「なりきれた度でいうと、まだ50%くらい。エルファバは肌が緑色で『他の人とは違う』という役で、『それでも自分の道を突き進んでいったら必ず良いことはある』というのが、私の感じとっているメッセージ。私も自分の道を正しいと思って進んで、彼女のような強い女性になりたいと思いました」
コーチ達と祈るように点数を待つ。72.69点が表示されると、顔をほころばせた。
「72点は自分が覚えている限りでは国内自己ベスト。こんなに緊張していても、普段通りの演技ができたことは良い自信になりました」
「優勝は嬉しいが、演技は悔しい」
翌日のフリー。6分間練習では、軽やかにトリプルアクセルを決める。調子は上がっていたが、緊張は抑えきれなかった。