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「イチローさんは200本安打の記録が途切れてから…」松山英樹が“超一流”に学んだ上昇志向…生涯賞金80億突破も、まだ「挑戦者」なワケ
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2024/09/06 11:02
期待された「年間王者」の座は来季以降に持ち越しとなったが、プレーオフシリーズの最終戦に駒を進めた松山英樹(32歳)
最終戦への参加は、一昨年まで9年も続けていれば、松山にとってはシーズンの最低限の目標である。首痛をはじめとした故障が相次いだ昨年、低調なシーズン(あくまでもトップ選手として、という注釈がつく成績だが)を過ごす間、そのハードルを越えられない焦燥感と早くから向き合っていた。
「僕は(最終戦)進出が厳しそうだと感じてから、『途絶えてからが勝負だ』と思っていた。イチローさんはメジャーでの200本安打が10年連続で途切れて(2001~2010年)からは一度も200本に届かなかった。それでもイチローさんは、ずっと上を目指したはず。『残念』と嘆くよりも次に行くこと」と語るほど、一度ダウンした後にどう立ち上がるか、に意識を向けていた。
愚直な上昇志向は、記録のようには途切れなかった。
年間王者はシェフラー、7勝はウッズ以来
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ツアー選手権は直前のポイントランキング順でスタート時にスコア差を設定する、プロゴルフでは異例の試合形式を採用している。プレーオフシリーズが始まった2007年以降は最後までポイントで争われていたのが、19年に現行制度になった。大会の優勝者がそのまま2500万ドル(36.5億円)を手にする年間王者になる。
優勝はスコッティ・シェフラー。正直言って、多くの人が胸を撫で下ろしたことだろう。今シーズン、マスターズを含む6勝を挙げて乗り込んだ最終戦も勝った。
1年のうちに7勝もしたのは2007年のタイガー・ウッズ以来である。パリ五輪では金メダルを獲得した彼がどれだけ圧倒的な強さを誇っても、ツアー選手権開始時の他選手に対するリードは最大で10打。ランク2位だったザンダー・シャウフェレとは2打しかなかった。4日間72ホールでそのプレッシャーに打ち勝ったのだから、王者としての価値は計り知れないものがある。
そして、2年ぶりにツアー選手権を戦った松山は、これまでで最も年間王者に近いポジションでスタートした。直前のポイントランクは3位で首位とは3打差でティオフできた。シーズン序盤から「ちょっとレベルが違う」と畏敬の念を抱いていたシェフラーには及ばず結果は9位タイ。スタート時のハンディキャップを除くと、16位タイのスコアだった。
逆転を狙ってアトランタ入りした松山には、小さくない変化があった。