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エース早田ひな、16歳張本美和を輝かせた“冷静な平野美宇”「自分がなんとかしないと…」8年前、リザーブに甘んじた天才少女の変貌
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by Yohei Osada/AFLO SPORT
posted2024/08/14 11:02
唯一の五輪経験者として女子代表を牽引した平野美宇(24歳)
日本女子のエース格にまで成長していた平野にとって、東京五輪でのシングルス出場権獲得は、きっと自身のなかでもノルマに近いものがあったはずだ。
選考では石川佳純らと争い、「今回出ないと一生(五輪に)出られないかもしれない」ともがいた。あまりのしんどさに「毎日どうしたら現実逃避できるか」と考えたこともあった。卓球が嫌いになったこともあった。
終盤まで圏内2番手につけ、シングルス代表も射程圏内に。だが、最後に逆転され、シングルス代表入りを逃した。団体の銀メダルに貢献したが、悔しさは拭えきれなかった。
「東京に行きたかったですけど、シングルスには行けないということで、3年間頑張ってきたんですけど、足りなかったなって思いました」
当時は震える声で言葉を絞り出したが、しかし、そんな苦い経験が、プレーのみならず、平野の精神面に変化を与えるきっかけとなった。諦めずに自身を成長させ続けられたことが、心身両面での強さにつながった。
伊藤美誠との熾烈な争い
だからこそ、パリ五輪選考レースでも諦めることなくしぶとく戦えた。
中盤以降、すぐ後ろから追いかけてきたのは東京五輪で金銀銅メダルをコンプリートした伊藤美誠。当然ながら追いかけられるほうが心理的に苦しいはずだったが、どんなに苦しくても逃げないと決めていた。弱い自分を懸命に取り払い、逃げずに戦った。どうしても欲しかったシングルス代表の座を掴むことができた。
そんな紆余曲折を経験し、自分の殻を破ろうともがいてきたからこそ、今の平野は少々のことでは崩れない。その表情には自信が満ち溢れている。