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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
今年だけで「日本王者が3人」「パリ五輪代表も」…スポ薦なし“偏差値70の進学校”陸上部がトップ選手を続々輩出のナゼ…成功の源は「急がない指導」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by(L)AFLO、(C)Yuki Suenaga、(R)Hideki Sugiyama
posted2024/08/04 19:01
パリ五輪代表の豊田兼(中央)をはじめ、ジュニア王者の高橋諒(左)、吉澤登吾(右)と今季日本王者を3人も輩出した桐朋高校陸上部
夏休みは、朝に学校に来て練習をしたら、そのまま残って自習をする生活。走る。机に向かう。食べる。寝る。シンプルな生活だ。
「友だちから、『吉澤の生活には娯楽がないね』と言われます。本当にないですよ(笑)。でも、やりたいことがやれているので満足です」
ただ、U20日本選手権を制した吉澤だが、同学年にはさらに上の選手がいる。
なんと高校3年生にして日本選手権の800mを1分45秒82のU20日本新記録で制した落合晃(滋賀学園)だ。
「インターハイでは落合君を倒したいと思っているので、いろいろ戦略は考えています」と話していた吉澤だが、7月31日、インターハイ決勝で直接対決が実現する。
このレースでは「衝撃」が走った。フェリックス・ムティアニ(山梨学院)と落合のふたりが、驚異のハイペースによるマッチレースを展開。落合がなんと1分44秒80の日本記録をマークして優勝したのだ。
吉澤もそのハイペースに巻き込まれながらも、落合を負かしにいく気概が感じられた。結果は4位。それでも日本記録が生まれたレースで競ったことは吉澤の財産になるに違いない。
桐朋から続く人材輩出…「たまたま」なのか?
短期間にこれだけの人材が輩出された桐朋。その成功の源にあるのは、外堀先生の「急がない指導」だと思う。
「いや、たまたま私が彼らにめぐりあえただけですよ。彼らが自分の能力に合わせ、適切な目標を立てて努力した結果だと思います。桐朋には勉強だけ出来ても周囲から尊敬されないというか、もうひとつ何かが出来てこそ、ようやく一目置かれる風土・文化があるので、それも影響しているかもしれませんね」
外堀先生の指導方針は“To Achieve Success Slowly”、「ゆっくりと成功を収める」とでも表現したらいいだろうか。ティーンエイジャーの早期成功がもてはやされる現代で、桐朋の3人は重要な価値観を提示している。
そういえば取材の日、同級生の落合について話が及ぶと、吉澤からこんな答えが返ってきた。
「いまは普通にやったら勝てないでしょうね。でも――将来的には抜くつもりなんで」
この日も東京・国立の桐朋のキャンパスは、緑が濃くて、元気だった。
<前回(400mH日本代表・豊田兼「大器のルーツ」編)も読む>