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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
今年だけで「日本王者が3人」「パリ五輪代表も」…スポ薦なし“偏差値70の進学校”陸上部がトップ選手を続々輩出のナゼ…成功の源は「急がない指導」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by(L)AFLO、(C)Yuki Suenaga、(R)Hideki Sugiyama
posted2024/08/04 19:01
パリ五輪代表の豊田兼(中央)をはじめ、ジュニア王者の高橋諒(左)、吉澤登吾(右)と今季日本王者を3人も輩出した桐朋高校陸上部
ところがいま、外堀先生は吉澤の練習メニューを作っていない。
「全部、吉澤にお任せです(笑)。去年あたりでしょうか、練習後に吉澤が話してくる“感覚”が私の理解を超えるようになってきました。これは私の手に余ると思いまして、吉澤に立案は任せるようにしてみました。もちろん、内容は確認しています」
取材当日、吉澤がいた。全体練習の後、校庭でダウンジョグをしている様子で、走り終えるのを待っていたら、
「まだ、20分か30分くらいかかりますよ。いま、話をしましょう」
とカジュアルな感じで話しかけてくれた。早速、練習メニューの立案について聞いてみた。
「そうなんです。僕が作ってます。いろいろな本や、動画を参考にしてますが、ありがたいことにいろいろな合宿に呼んでいただいているので、そこでコーチの方々にどんなメニューがあるのか、聞くのがいちばん参考になります。やってみてちょっと違うなというものがあったりしますが、自分で組み立てていく感じは楽しいですよ」
吉澤は桐朋に同格の選手がいないため、ほぼ単独で練習時に追い込んでいる。これはたいへんなことだ。同格の選手がいれば引っ張ってもらえたり、密度の濃い練習が可能になる。
ある意味で吉澤は孤独な作業に取り組んでいるが、苦にはならないという(聞けば、私のジョギングコースで、スプリント系の練習を積んでいるようだった。どこかですれ違っていたかもしれない)。おそらく、このメンタリティがU20日本選手権で単独で押し切れた源になっていると思う。
在学中の800mジュニア王者は「東大志望」
独力で進められる強さ。これは陸上と学業の共通点でもある。外堀先生によれば、吉澤は学業も一生懸命取り組んでいるという。
「桐朋に限っていえば、学力と競技力に相関があると思っています。嫌な練習から逃げがちな生徒だと、苦手な教科の勉強を後回しにしたりすることがあるのかな、と感じます」
吉澤は大学で専攻したいのは物理だと話す。
「量子物理学とか、興味ありますね。東京大学で勉強したいと思っています」
実は、外堀先生からも志望校の話を聞いていたが、「それは文字にはせずに」と言われていた。ところが、吉澤は書いてもらって構わないという。
「僕、宣言してから実現するタイプなので。豊田さんのように大学4年生の時に(ロスの)オリンピックを迎えるので、浪人できないです。プレッシャー、あります」