濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「見栄えなんて関係ない」人気女子レスラー・安納サオリが見せた“底知れないタフさ”…岩田美香戦前、母親に告げられた「勝つまで帰ってくるな」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/07/27 11:00
岩田美香との2冠戦に勝利し王座に返り咲いた安納サオリ
「ライバルでもない、ただの敵でもない」
岩田はリマッチの決意をした安納に、もう一歩踏み込んだ提案をした。自身が持つセンダイガールズのベルトもかけて2冠戦にするという。
「ライバルでもない、ただの敵でもない。言葉では表せない存在です、岩田美香は」
闘う相手を奮い立たせるためにLINEをするというのは、この2人ならではの関係性だろう。
「そういうヤツなんです、岩田は。人を絶対に見捨てない。私との連戦で、岩田のカッコよさに気づいた人もたくさんいると思う。私としては“だろ?”って気持ちですね。私がずっと追ってきた岩田美香は凄いやろって」
2冠戦の場は7月15日の仙女・後楽園ホール大会。新人時代の安納は、女子プロレス界有数の“実力派集団”である仙女を敷居が高いと感じていたそうだ。まさかベルトを巻くことになるとは思わなかった。けれどそこに岩田美香という特別な存在がいたから、初の2冠戦が実現した。岩田vs安納がメインの後楽園大会は満員になった。
タイトルマッチで感じた「底知れないタフさ」
安納のセコンドには、コズエンのメンバー全員がついた。昨年、安納がコズエンに入ったきっかけはメンバーの離脱で窮地に立ったたむを助けるため。しかし今はコズエンに助けられてもいる。たむやなつぽいだけではない。後輩たち(水森由菜、さくらあや、玖麗さやか)を見て「いい試合しやがって」とジェラシーを感じることもある。
「試合に、岩田に集中しながら、コズエンのみんなの声がよく聞こえたし顔も見えました」
安納はそう振り返る。コズエン、岩田、スターダムのマッチメイク、すべてに背中を押されてのリング。6月に自分を押し潰した「自分のためだけの勝ち負けじゃない」という思いは、今回はプラスになった。“スターダムの安納サオリ”として仙女に登場するのは、この日が初めて。そのプライドが力になった。
前回は勝負どころで岩田のキック連打を食らい、フィニッシュにもっていかれた。だが今回は蹴り返した。何度も何度も顔面を蹴り飛ばす。
「無我夢中で蹴ってました。たぶん形としてはグチャグチャ。どっちにしても、私と岩田の闘いは見栄えなんて関係ないので」
フィニッシュは得意のジャパニーズオーシャン・スープレックスホールド。その直前にはなつぽいの技であるフェアリアル・ギフト(側宙式ボディプレス)も決めている。実は試合前、なつぽいにコツを聞いて練習していた。普段はコーナーからのプレス技は使っていないのだが、この日は「なつみの気持ちも込みで勝ちたかった」と安納。
試合を見て感服したのは、安納の底知れないタフさだ。岩田戦そのものもハードだったが、この試合は5連戦の最終戦でもあった。