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「見栄えなんて関係ない」人気女子レスラー・安納サオリが見せた“底知れないタフさ”…岩田美香戦前、母親に告げられた「勝つまで帰ってくるな」
posted2024/07/27 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
6月22日にベルトを失い、7月15日に取り戻す。短期間でのタイトル奪還は、しかし軽いものではなかった。初めての経験ばかりだった。
安納サオリは昨年4月からフリーとしてスターダムに参戦。団体の看板の一つである“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダム王座を獲得した。今年4月からはスターダム“専属”という形に。これまでのように他団体にも参戦できるが、ベースとなる契約やグッズ制作、プロモーションなどスターダム主導の面も多くなった。
簡単に言えば“スターダムの安納サオリ”になったのだ。そこに安納自身も誇りを持っている。かつては外から眺めているしかなかったスターダム、その中心に自分がいるのだ。
敗戦後、安納が「切り替えられなかった」理由
もともとはフリー参戦だったから、生え抜きとは違う自分にしかできないことにも意識的だった。その一つが、6月22日のタイトル防衛戦だ。安納が指名した挑戦者は、センダイガールズ(仙女)の岩田美香。フリー時代に2度シングルで闘い、いずれもドローとなっている相手だ。2人は常に互いの存在を意識し合ってきた。
そんな岩田とのタイトルマッチを、安納は「私のわがまま」だと言った。同期で同じユニット「コズミック・エンジェルズ」(コズエン)に属するなつぽいとベルトをかけて闘う“約束”もあった。スターダムには白いベルトを狙っている選手がたくさんいる。安納はそれよりも岩田との“決着”を優先して、結果として負けた。
そうなると“わがまま”が重くのしかかる。3カウントを聞いた安納は茫然自失となった。再戦を求める岩田の声も、鼓舞してくれるなつぽいの言葉も入ってこない。
「私は基本的にポジティブで切り替えが早いんです。でもあの時は切り替えられなかったですね。それは自分だけのことではなかったから。他の選手を後回しにして、会社にわがまま言って、それなのにベルトを流出させてしまった」
ベルト奪還への流れも、自分で作ったわけではない。奮起を促すべくスターダムが組んだタッグ対決。横にいるなつぽいからも、対角にいる岩田からも毎日LINEがきた。コズエンのリーダーである中野たむも連絡を欠かさなかったし、ベルト流出を責める人間の何十倍も応援してくれる人がいた。