NumberPREMIER ExBACK NUMBER

「少し意外でした」藤井聡太にタイトル戦で初めて勝った伊藤匠(21歳)が感じた異変「藤井さんだったら普通に勝ち切る印象もあったので…」
 

text by

大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

PROFILE

photograph byNanae Suzuki

posted2024/07/21 11:01

「少し意外でした」藤井聡太にタイトル戦で初めて勝った伊藤匠(21歳)が感じた異変「藤井さんだったら普通に勝ち切る印象もあったので…」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

藤井聡太にタイトル戦で初めて土をつけた伊藤匠

 叡王奪取から10日後のインタビュー。「奪取の喜びからはもう離れています」と開口一番に語った伊藤に小学生時代の話を振ると、「フフフ」と静かに笑った。「藤井さんに大会で勝ったことは覚えていますけど、泣いていた姿は見ていません。それに小学生時代の対戦はそれほど重要ではないのかなと。取り上げやすい話だとは思いますが」と各方面に気遣いを見せた。

 藤井より1年後に奨励会入りした伊藤の修業時代は苦しいものだった。藤井の後塵を拝し、引き離される一方の日々。将棋に専念するため、通っていた進学校を高校1年の1学期に自主退学した。'20年10月にようやく四段に昇段したが、その時、藤井は棋聖と王位の二冠王だった。

 タイトルホルダーと新四段。天と地ほどの差があるが、伊藤はすぐに頭角を現す。デビュー翌年の'21年度に45勝10敗で勝率1位に輝き、デビュー以来4年連続勝率1位という藤井の大記録を止めたのだ。

「藤井さんの強さを体感しました」

 そして昨秋、ついに伊藤は大舞台で藤井と相まみえることになる。第36期竜王戦七番勝負の挑戦者として躍り出たのだ。開幕時点で両者の年齢の合計は41歳。タイトル戦史上、最年少の組み合わせとなった。伊藤に期待する声は大きかったが、結果は4連敗。「2日制の竜王戦で藤井さんの強さを体感しました。藤井さんの指し手は精度が高くてほとんどスキがなかった」と伊藤は振り返る。実力の差は明らかだった。

 それでも伊藤は竜王戦敗退から1カ月半後、棋王戦の挑戦権を獲得した。今年2月に開幕した五番勝負は開幕戦こそ持将棋に持ち込んだものの、その後3連敗で敗退。またしても1勝もできなかった。どうすればいいのかと途方に暮れそうなものだが、伊藤はすぐに立ち上がった。棋王戦の敗退からわずか2日後、叡王戦五番勝負への出場を決めたのである。なんとタフなのか。

「当時は対藤井戦以外では結果を残せていたので、負けを引きずらないで済んだのかもしれません。メンタルが強い? うーん、確かにそこそこかもしれない。将棋以外のことを全くやっていないので、ブレがないのかもしれませんね」

「正直言うとあまり考えていなくて…」

 タイトル戦で3度目となる対藤井戦。伊藤はどこに勝機を見出そうとしていたのか。すると意外な答えが返ってきた。

【次ページ】 「正直言うとあまり考えていなくて…」

BACK 1 2 3 NEXT
#渡辺明
#藤井聡太

ゲームの前後の記事

ページトップ