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暴走族ヘッドの説教、女性警官が取り調べで涙…“札付きのワル”愛甲猛はなぜ甲子園のスターになれたのか?「野球がなければ間違いなくソッチの道に」 

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長谷川晶一

長谷川晶一Shoichi Hasegawa

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posted2024/06/28 11:04

暴走族ヘッドの説教、女性警官が取り調べで涙…“札付きのワル”愛甲猛はなぜ甲子園のスターになれたのか?「野球がなければ間違いなくソッチの道に」<Number Web> photograph by AFLO

1978年夏、甲子園のマウンドに立つ横浜高校1年時の愛甲猛(当時15歳)。将来を嘱望されていたが、直後に野球部から失踪してしまう

野球部から失踪し暴走族に…女性警官は取り調べで涙

 1978(昭和53)年、高校1年の夏に甲子園に出場し、早くも注目を集めていた愛甲は、その年の秋、野球部から失踪したという。

「1年夏の甲子園が終わって、もうどうしようもなく肩が痛くなった。誰にも言えずに、それでも秋の大会で投げ続けていたら、今度は腰まで悪くなった。先輩にも、監督にも言えない。でも、満足に投げられないから、“アイツは天狗になっている”と言われる。それがものすごいイヤで寮を抜け出したんです」

 友人の家を転々とする日々が続いた。久しぶりに暴走族の集会に顔を出しもした。すると、ヘッドを務める先輩に「ちょっと来い」と呼び出された。

――お前はこんなところにいるヤツじゃねぇだろ、とっとと戻れ!

 そして、こう続けた。

――お前はオレたちの夢なんだよ。

「久々に先輩に会ったから、“歓迎してもらえるのかな?”って思っていたら、“お前、こんなところで何してんだ?”ってものすごい怒られて。やっぱり、オレたちがガキだった頃はみんな野球が好きだったから、オレが甲子園に出て、テレビに出たっていうことがものすごく自慢だったらしくて、野球もせずにそこにいるっていうことがとっても腹立たしかったらしいんだよね。それで、“お前はこんなところにいるヤツじゃない、とっとと戻れ!”って……」

 このとき先輩が口にした「お前は、オレたちの夢なんだ」という言葉は、その後も長く愛甲の脳裏に深く刻まれることになる。

 ちょうどこの頃、補導された。調書を取った防犯課の担当者は中学時代からなじみのある女性警官だった。取り調べの途中、彼女は涙を流して訴えた。

――もう一回、野球をやってよ……。

「防犯課の林さんっすね。中学の頃、パチンコ屋に出入りしていたときに、“こんなところで何してんの?”ってよく怒られていた警察の方なんだけど、彼女が一緒になって泣いてくれたんです。高校のときに補導されて、林さんが調書を取っていたんだけど、“もう一回、野球やってよ”って真剣に泣いてくれたんです……」

【次ページ】 「お前から野球を取ったら、一体、何が残るの?」

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