濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「可愛いのかと思ったら鬼やんけ」出会いから9年の決着…安納サオリを破った岩田美香のプライドの理由「スターダムはどんどん大きくなって…」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/06/30 11:00
別団体のチャンピオン同士の“決着”となった安納サオリvs岩田美香のタイトルマッチ
今年2月の対戦もドロー。岩田は安納の腰のあたりを指差した。その時はチャンピオンベルトを巻いていなかったが、意図するところはすぐに分かった。
別団体のチャンピオン対決に、覚悟の表れ
岩田は昨年9月、安納は12月に戴冠。「岩田との決着はだいぶ先かも。もしかしたら決着つかないのかな」と安納が語っていた時期もある。別団体のチャンピオン同士がベルトをかけて闘うのはリスキーだ。その選手だけでなくベルトの価値、団体の優劣という見方にもつながる。今回も、どちらも譲らず引き分けという予想をしたファンが多かったのではないか。
「いや、そうはならないです」
安納はこれが決着戦であることを強調した。お互い覚悟を持ってタイトルマッチに踏み込んだのだと。
岩田は仙女のベルトを巻いてリングに上がる。それも覚悟の表れだった。これはチャンピオン対決なのだと自らアピールしたのだ。
「丸腰では帰れなかった」
試合後の岩田のコメントだ。実際には、負けても丸腰ではない。ダブルタイトルマッチではないのだから、仙女のベルトは残る。しかし気持ちとしては“負けたら丸腰”、オール・オア・ナッシングだったのだろう。
フィニッシュの瞬間、会場には大きなどよめきが…
試合の中で目立ったのは岩田の攻撃力だ。頭部もボディも容赦なく蹴る。安納は“受け”の姿にも魅力がある選手。苦痛に耐えながらの反撃が絵になっていた。つまりは個性が見事に噛み合う。
最後は蹴りの連打でたたみかけた岩田が、変形ドライバー「雷音」でフィニッシュした。その瞬間に起きた大きなどよめきが、予想外の結果であることを如実に示していた。王座移動、それは“王座流出”でもあった。
安納は茫然自失。なつぽいの呼びかけにも、今度は自分が挑戦を受けるという岩田の言葉にも返答が出てこない。無言のままリングを降りた安納は、SNSに「ごめんなさい」とだけ書き込んだ。
自分の「わがまま」を通して、他団体との王者対決に踏み込んで、結果としてベルトを失った。何も言えなくて当然ではあった。