酒の肴に野球の記録BACK NUMBER

プロ野球「超投高打低」異常事態の象徴…レア記録のはずが4年で14例「100球未満完封=マダックス」の背景〈OPSは衝撃的な急落〉 

text by

広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

PROFILE

photograph byJIJI PRESS

posted2024/06/25 11:00

プロ野球「超投高打低」異常事態の象徴…レア記録のはずが4年で14例「100球未満完封=マダックス」の背景〈OPSは衝撃的な急落〉<Number Web> photograph by JIJI PRESS

いわゆる「マダックス」を達成した隅田知一郎。プロ野球の「投高打低」を象徴するスタッツとなっている

 NPBも投手の投球数については記録がない時期があったが、わかっている限りでは同じ日にマダックスが2回あったのは、1966年7月3日に石岡康三(サンケイ)が 広島を99球、渡辺泰輔(南海)が東京を90球で完封して以来、58年ぶりだ。

 なおこの間、失点したものの100球未満で1人の投手が完投した例は12例あったが、そのうち6例が2021年以降だった。

マダックス増加とともに見逃せない「OPS急落」

 なぜ近年、マダックスが増加しているのか?

 その背景には最近、NumberWebでも記事が上がったように、昨今のNPBで極端な「投高打低」が進行していることがあるだろう。

 打撃の総合指標であるOPSは、ここ5年で続落。とりわけ今年は急落している。

〈ここ5年のセパOPS〉
 2020年 セ/.714 パ/.703
 2021年 セ/.698 パ/.683
 2022年 セ/.678 パ/.668
 2023年 セ/.668 パ/.664
 2024年 セ/.625 パ/.640

 打撃力が低下すれば、投手陣が優位になる。おのずと先発投手の球数は減っていく。

〈ここ5年の先発投手の9回あたりの平均投球数〉
 2020年 セ/149.5球 パ/151.9球
 2021年 セ/148.9球 パ/149.6球
 2022年 セ/145.2球 パ/145.3球
 2023年 セ/143.5球 パ/145.7球
 2024年 セ/141.8球 パ/142.0球

 ここ5年で先発投手の投球数は9回換算で8~10球も減っている。イニング当たりの投球数も2020年は16.6~16.8球だったのが、2024年は15.8球前後まで減っている。1イニングにすればわずか1球弱だが、トータルでは大きな差となってくる。

 この数字は早いイニングで打ち込まれて降板した投手の成績も含めてのものだから、投手の優位は5年で急速に進んだといえよう。

マダックス多発は投手の進化か、打者の弱体化か

 個々の投手の能力もあるが、打者の全体的な打力が下がって、安打や長打を食らう可能性が低くなれば、投手は思い切って攻めることができるようになる。捕手もストライク先行でリードする。

 近年、投手そのもののトレーニング法も劇的に変わった。弾道測定器のトラックマンやラプソードのデータに基づいて、回転数を向上させたり、変化量を制御したりすることができる。またバイオメカニクスの発達によって、故障が少なく効率が良い投球フォームを作ることができる。そうした投手の進化も背景にはあっただろう。

 昨今の「投高打低」については稿を改めたいと思うが、レアな記録であるはずの「マダックス」は今季、さらに出現する可能性もある。

 多発するマダックスが「投手の進化の賜物」といえるのか。それとも「打者の弱体化」によるものなのか――今後も慎重に見極めていきたい。

関連記事

BACK 1 2 3
隅田知一郎
埼玉西武ライオンズ
清川栄治
伊藤大海
石田裕太郎
グレッグ・マダックス
OPS

プロ野球の前後の記事

ページトップ