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「強っ!レベル高っ!」ボクシング“最強世代”田中恒成が驚いた井上拓真との初対戦「アイツになら負けてもいい。そんな気持ちになったのは拓真だけ」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byMakoto Maeda
posted2024/06/11 17:01
2012年インターハイのライトフライ級決勝で対戦した井上拓真(左)と田中恒成。この時は田中に軍配が上がった
もう思い切りいくしかない。前回の反省を生かし、気持ちを前面に出してがむしゃらに攻め抜いた。恒成が8-5で勝ち、優勝。尚弥が海外遠征で不在の中、今度は田中兄弟がダブル制覇を成し遂げた。
物語の主役は尚弥と亮明から「スーパー1年生」の拓真と恒成へと引き継がれた。二人の試合になると、自然とリング周辺に人だかりができる。ハイレベルで白熱の好勝負。拓真は華麗なステップワークに乗せて、多彩なパンチを打ち込んだ。恒成は攻防のテンポが速く、果敢に前へ出る。多くの試合において、1ラウンドは拓真が先行し、2ラウンドは恒成が巻き返す。最終3ラウンドを獲った方が勝利というスリリングな展開で、両者の闘いはかみ合った。
負けてもいいから、思い切り戦いたい
恒成は元世界王者で、のちに所属ジム会長となる畑中清詞からこう言われた。
「拓真との試合はプロの世界戦の練習みたいなもんだからな」
独特の緊張感と実力者同士による紙一重の闘い。いずれ経験するかもしれないプロ最高峰の舞台を連想させた。
負けん気が強く、尖った高校時代だったにもかかわらず、恒成には不思議な感情が込み上げてきた。
「拓真のことをすごく認めていたというか、その気持ちが強かった。だから、どうせなら決勝でやりたい。負けてもいい、と言ったらおかしいけど、とにかく拓真とは思い切り闘いたい、というのがありました」
アイツになら負けてもいい。そんな気持ちになったのは拓真に対してだけ。これからも他の人にそう思うことはないだろう。
見た目とのギャップに驚いた 「体操服イン」の選手
高校1年の終わり頃だった。
各地から選手が集まり、岐阜でスパーリング合宿が行われた。恒成はそこである選手と遭遇する。
「体操服イン、みたいな子がいたんです」
体操着のようなTシャツを律儀にズボンの中に入れている。闘争心が必要なボクシング。着こなしが独特で朴訥とした姿は「ちょっと、大丈夫?」と心配になるほどだった。だが、いざ手合わせをするとパンチが強い。見た目とのギャップに驚いた。「体操服イン」の選手は、阿久井政悟(岡山・倉敷翠松)と名乗った。
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