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「はるか頭上に井上がいた」寺地拳四朗が語る“モンスター”井上尚弥への本音…2学年下の怪物との出会い「“これは違う”というくらい強かった」
posted2024/06/05 17:05
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Takuya Sugiyama
【初出:発売中のNumber1097号[現役王者たちの本音]寺地拳四朗&中谷潤人「あなたにとって井上尚弥とは?」より】
「面白いけど、命を削っている感はありますね」
ライトフライ級の2団体統一チャンピオン、寺地拳四朗のファイトが熱い。直近では1月23日、カルロス・カニサレスとダウン応酬の熱戦を演じ、辛くも判定で逃げ切った試合は、スリルとアクションに満ちたハリウッド映画のようでもあった。
試合が「面白い」と称えられる。「感動した」とほめられる。それはボクサーにとってこの上ない喜びだ。寺地もそう感じている。ただ、最近の感情はそう単純でもない。
「ああいうヒヤヒヤする試合は面白いんだと思いますけど、命を削ってる感はありますね。人間、ほめられるとがんばるじゃないですか。メインを任されて『盛り上げなあかん』とも思う。そういう気持ちが距離感を狂わせるんですよ。倒そうと思えば体は微妙に前に出る。知らん間にスタイルが変わっていく。バグっていくんですよ」
寺地は2022年11月、京口紘人との2団体統一戦でアマゾン・プライム・ビデオのメイン・イベンターに抜擢された。以来、4試合はすべてメインで、いずれも壮絶なファイトを披露した。そしてカニサレス戦を終え、右拳を手術したこの機会に、自らのボクシングを見つめ直しているのだ。
「危険な戦い方をしてますよね。自分の映像を見て、八重樫さんもそうだったのかな、と思うんですよ。八重樫さんが現役のころ『あんなに殴られるの嫌やな』と思って見てたんです。それが今は自分も同じになってる。分からんもんですね」
元3階級制覇王者の八重樫東は現役時代“激闘王”と呼ばれたが、最初からこのようなスタイルを好んでいたわけではない。バチバチの試合がファンの期待を高め、気がつけば激闘が定着していた。
V13は「それしか選択肢がなかった」目標
寺地はもともと脚を使って距離を取るスタイルを身上としていた。'17年5月に世界王者となり、防衛を重ねながらKOを増やしていくが、なかなか主役にはなれなかった。イベントのメインはいつもミドル級五輪金メダリストの村田諒太や、派手に倒しまくる“怪物”井上尚弥だった。
当時の心境を問うと、「メインじゃないのはしゃあない。けがなく防衛できればいいという感じ」と答える一方で、「こんなにあっさり勝ってるのに、もう少し評価されてもいいやん、とは思っていた」との本音も明かす。心の中で「仕方がない」と「評価されたい」が同居していた。