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「強っ!レベル高っ!」ボクシング“最強世代”田中恒成が驚いた井上拓真との初対戦「アイツになら負けてもいい。そんな気持ちになったのは拓真だけ」
posted2024/06/11 17:01
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Makoto Maeda
【初出:発売中のNumber1097号[追憶ノンフィクション]井上拓真/田中恒成/ユーリ阿久井政悟「最強世代が覇を争った高校3年間」より】
井上拓真の予感「ずっと当たるかもしれないな」
これは偶然か、それとも運命なのか。
1年生の井上拓真(神奈川・綾瀬西)の耳に、ある声が聞こえてきた。
「弟が出るらしいぞ」
2011年8月12日、インターハイが開催中の秋田市立体育館。ピン級(46kg以下)の2回戦を勝利で終えると、入れ替わるように田中恒成(岐阜・中京)がリングに上がった。
拓真と恒成には2学年上の兄がいる。井上尚弥と田中亮明。同階級の二人は全国大会の上位でぶつかるライバル。その弟同士もまた同じ階級のようだ。
リング上の勝者と準々決勝で対戦することになっている。じっくり「弟」の動きを観察した。スピードがあり、他の選手と比べ、頭一つ抜けて見える。
「ここからずっと当たるかもしれないな」
拓真はそんな予感を覚えた。
「強っ! レベル高っ!」あまりの力強さに驚いた
翌13日。拓真はリング上でイメージ通り闘うことができた。
対する恒成は対峙した瞬間、相手のあまりの力強さに驚いた。
「強っ! レベル高っ!」
心の声が漏れ、表情と動きに出てしまう。前に出るのが持ち味の恒成が自ら下がった。顔が歪む。相手のレベルが一段上で「敵わないな」と気持ちでも負けていた。
恒成の父・斉は試合途中にもかかわらず、席を立った。「アイツ、びびっとる」。もうこれ以上、見ていられなかった。後にも先にも途中退席した唯一の試合だ。
拓真の手が挙がった。続く準決勝で坪井智也(静岡・浜松工)、決勝で中嶋憂輝(奈良・王寺工)と同学年を破って優勝。ピン級は1995年世代が席巻し、その頂点に立った。ライトフライ級(49kg以下)決勝では尚弥が亮明を退け、井上兄弟がダブル優勝を飾った。
「正直、やっぱりナオ(尚弥)が1年からタイトルを獲っていて、その流れもある。俺もいけるだろう、という感じでしたね」
拓真の心は安堵感に包まれた。
2カ月後の山口国体で早くも再戦のときがやってくる。恒成はライトフライ級の初戦で3年生の京口紘人(大阪・伯太)を破るなど4試合を勝ち上がり決勝へ。反対側のコーナーには当然、拓真がいる。