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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「やめます。もう肩が動きません…」東洋タイトルを失い内藤律樹は泣き崩れた…父はカシアス内藤、ボクシング界の“消えた天才”が再起するまで
text by
関根虎洸Kokou Sekine
photograph byKokou Sekine
posted2024/05/14 11:10
2014年2月10日、無敗のまま9連勝で日本スーパーフェザー級王座に輝いた内藤律樹。父のカシアス内藤、『一瞬の夏』作者の沢木耕太郎氏と
しかし迎えた4度目の防衛戦で後の世界チャンピオン尾川堅一に負傷判定で初黒星を喫すると、1年後の再戦にも敗れて世界戦線から大きく後退してしまう。この頃、リッキーは深刻な減量苦に悩まされていたため、スーパーフェザー級から2階級上げてスーパーライト級で再出発することになる。2018年に東洋太平洋スーパーライト級のタイトルを獲得。だが、2021年12月に5度目の防衛戦で挑戦者に麻生興一を迎えた一戦は、いいところなく初めてのTKO負けを喫した。
「……やめます。もう肩がまったく動きません」
「やっちゃった……」
試合後の静かな控室で、リッキーは繰り返しつぶやいた。そして「……すみません、関根さんと2人にしてもらえますか」と私以外のセコンド2人に促した。
「……やめます。もう肩がまったく動きません」
リッキーは泣き崩れて床に座り込んだ。
「わかった。そうしよう。ここまでよくやった」
静かな控室でどのくらいの時間が経ったのだろう。私はリッキーが控室を出る時に、一言だけ付け加えた。
「引退のことはまだ誰にも言わない方がいい。ちゃんと準備してから伝えた方がいいから」
「分かりました」
そういって私はリッキーと別れた。
いいところなく敗れたこの試合でボクシングを辞めることはできないだろう。リッキーは必ずまたボクシングがやりたくなるに違いない。ボクシングを辞めたいと聞かされても、私はそれほど深刻にならなかった。
「オーストラリアからスパーリングパートナーの話が来たみたいなんです」
リッキーからそう聞いたのは、無冠になったあの試合から8カ月がたった2022年の夏だった。心機一転するには都合がいい。スパーリングパートナーとしていいパフォーマンスを見せれば、海外での試合のチャンスも見えてくるかもしれない。
リッキーは3週間分の荷物をスーツケースに入れて、オーストラリアの地へ旅立った。
<続く>