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井上尚弥のエグい左でタパレスの顔面が歪み…“中継では伝わらない決定的瞬間”を捉えたカメラマンの証言「苦戦という印象はまったくない」《井上尚弥BEST》
posted2024/05/04 11:01
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph by
Naoki Fukuda
<バンタム級に続き、スーパーバンタム級でも4団体統一を果たした井上尚弥。マーロン・タパレスとの一戦をリングサイドで撮影した“パンチを予見する男”は、KOに至るまでの攻防をどう見つめていたのか。全米ボクシング記者協会(BWAA)の最優秀写真賞を4度受賞したカメラマンの福田直樹氏が、“モンスター”の超人的なボクシングを解剖する。>
タパレスは「本気で勝ちにきていた」
試合を撮り始めてまず予想外だったのは、タパレス選手の立ち上がりが非常に慎重だったことです。これまでのスタイル通り序盤から前に出ていくのかと思いきや、井上選手の強打を警戒して、しっかりと後ろ重心に構えていた。
一方の井上選手も、直近の試合と比較すると、かなり警戒心を高めているように見えました。細かな攻防のなかで、「打ち終わりを狙われている」と察知したのかもしれません。両者のそんな思惑が重なって、序盤はやや膠着した展開になりましたね。試合前は中盤までのKOもあるかもとイメージしていましたが、3ラウンドを終えた時点で、「これは少し長引きそうだな」と考えを改めました。
序盤にタパレス選手が不完全な体勢から右フックを放ったんですが、そのパンチの質感、タイミングが想像以上によかった。上体を柔らかく使って強打を殺すテクニックも優れていて、パンチへの反応も速い。過去の映像を見るかぎりではもう少し“粗いボクシング”をするイメージだったのですが、間近で見ると非常にいい頭脳を持っていて、攻守ともに精度が高かったですね。
7月のスティーブン・フルトン戦は、1ラウンドを終えた時点で「これはヤバい」と相手の顔色が変わっていました。それに比べれば、タパレス選手は“モンスター”が相手でもひるんでいなかった。コンディションも非常によく見えましたし、守備的ではありましたが「本気で勝ちにきている」と感じました。タパレス側からすると一番の狙いはやはり打ち終わりで、それに対して井上選手も「打ち終わりを狙ったパンチの打ち終わり」を狙う。リングサイドからはそんな展開に見えていました。