「感情の出し方も凄く考えるようになりました」

「技をかける時だけじゃなくかける前、かけた後への意識も強くなりました。受ける時もそうです。技の出し方、感情の出し方も凄く考えるようになりましたね」

　試合で声を出すことも意識してやっているそうだ。

「特にレフェリーチェックの時は一番大事にしてます。ルーティーンというか願掛けというか。ここで思い切り声を出すと、試合中も声が出せるんです」

　バロメーターのようなものでもあるようだ。リングのサイズは同じでも、会場が広ければ声や表現もより大きくする必要がある。そうして観客の心に自分を届けるのだ。「お願いします！」とレフェリーに大声で言って、それがどれくらい会場に反響しているかを天咲は聴いている。いわば会場全体へのセンサーだ。

　表現は細部に宿る。教わった技を使って、とにかく一生懸命にやればいいという時期はもう終わった。今の具体的な目標は若手のトップ。昨年から今年にかけ新人が6人デビューしたスターダムで「いつまでも同じポジションにはいられないので。抜け出さないと」と天咲。

去っていく林下「安心してスターダムを任せられます」

　より細かく、より深くプロレスを捉えて、きっとその先にスターダムの“てっぺん”がある。意識するポイントが多いからか、試合への集中力も増した。故郷での大会、家族や友人は応援に来ていたのかと聞くと「そういえば全然気づきませんでした」。

　これまでは会場を見渡し、知っている顔を探していた。けれど今回はまったくそんな気が起きなかった。相手に集中し、あらゆる表現に気を配り、同時に会場全体を捕まえようとしていたのだ。

「今のQQなら安心してスターダムを任せられます」

　退団1週間前の林下にそう言わせたのは天咲だった。そのことに大きな意味がある。そう確信できる試合だった。