濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
RIZINメインイベント「わずか1分43秒のKO劇」はなぜ起きた?“寝技師”ホベルト・サトシ・ソウザが中村K太郎を打撃で圧倒した理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/03/31 17:00
打撃で中村K太郎を圧倒したホベルト・サトシ・ソウザ(右)
指輪を贈るサプライズ「奥さんは7年待っててくれた」
人生が滲み出る勝利と言っては大げさか。だが試合後にも人生を感じさせる場面があった。ケージに入り祝福する妻に指輪を贈るサプライズ。子供もいるから「え、まだ結婚してなかったの?」とファンどころか同門の選手も驚いていたが、そうではなかった。
「7年前に結婚したんだけど、それは紙だけ。指輪もパーティーもしてない。子供のため、車、家にお金を使ってきて、奥さんは7年待っててくれた。だから特別な、いい時にみんなの前で指輪をって。それもあるから今日は負けたくなかった」
タイトル挑戦者候補でもあった中村をノンタイトル戦で下したサトシは、防衛戦の相手について「誰でもいい」と言う。
「チャンピオンになるまでも相手選んでないから。これからもそう。相手はRIZIN(運営)とファンが選ぶもの」
次に闘うのが誰であれ、その選手はサトシの寝技だけでなく打撃も警戒しなければならない。サトシはもはや柔術だけの選手ではないのだ。そして警戒する範囲が広い分だけ、勝負の天秤はサトシに傾くだろう。
印象に残った“もう一人のベテラン”
今大会では、若い選手が敗れて自分への「失望」や「限界」を語ることもあった。勝負の世界はそれだけ厳しい。そんな興行の最後の最後、34歳の柔術家が打撃での勝利を見せたのだから面白いではないか。努力しても結果がついてこない時は誰にでもある。練習したことが出せない時も。おそらくサトシにもそういう時はあって、しかし彼は踏ん張ったのだ。
今大会ではもう1人のベテランも印象に残った。RIZIN2戦目の36歳、佐藤将光だ。修斗の世界王者からアジアベースの国際大会ONE Championshipへ。アウェイで“世界”と闘う経験を積み、昨年からRIZINに参戦している。
勝てばタイトル戦線も見えてくる井上直樹戦で敗れた佐藤だが、一進一退のテクニカルな攻防は見応え十分だった。その魅力は、インタビュースペースでも発揮されている。
試合の感想は「凄く楽しくて凄く悔しかった」。練習してきたことを出し、試すことができた。そこに悔いはない。
試合を終えたばかりだが攻防の詳細を記者の前で解説し、ジャッジの採点内容を聞いてさらにやり取りを続ける。頭の位置によって寝技の攻防がどう変わったかも具体的に説明していた。敗北に取り乱すようなところがまるでない。落ち着き払って、むしろ清々しい表情だった。